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B面トライアングル<6>

B面トライアングル<6>【初めてのライブハウス3~豚の躾け~】

楽屋へ戻ると知らない人達がたくさんいた。みんな演奏する人なんだと思うとみんなスゴイ人に見える。吉貴くんの姿を見つけた時は妙に安心した。私はとにかく彰人さんの傍にはもう居たくなかったので、すぐに吉貴くんのところへ駆け寄った。

「お、かずみ。どこ行ってた?さっき慶太も来たんだ。今、陽一と一緒に外に女の子見に行ったわ。」

ケイちゃんも来てるんだ。そしてケイちゃんでも女の子見に行ったりするんだ。ちょっとびっくりした。陽一っていうのは藤崎の名前だ。きっと藤崎に無理矢理付き合わされているのかもしれない。ケイちゃんとは異性の話をしたことがないからかもしれないけど、なんとなく結び付かない。

「慶太も色気づいてきたかぁ。でも珍しいな、慶太来るの。」

私の後ろで彰人さんが言った。

「あー、彰人、おまえどこ行ってたんだよ、紗由美ちゃんが探してたぞ、おまえのこと。」

吉貴くんが言っている「紗由美ちゃん」という人はたぶんさっき彰人さんを探しに来た女の人のことだ。彰人さんの彼女さんなのだろうか。

「かずみと屋上にいた。かずみがちょろちょろするからさ、オレもう心配で。」

誰も心配してくれなんて頼んでないし、そういうことを言って欲しくない。そういうことを言われるだけで恥ずかしいのは私だけだと分かっていても、ヤダ。

「心配してくれなんて頼んでない。子供じゃないんだから。」

そういって彰人さんを睨みつける私を見下ろす彰人さんの余裕の笑顔が憎らしかった。吉貴くんは私と彰人さんのそんな様子を見て、「何、おまえら仲良しになったの?」と聞いたけど、私と彰人さんは即座に「なってない。」「なったよ。」と同時に真逆の返答をした。

私はケイちゃんのところに行きたかったけど、藤崎が一緒にいるから行けない。藤崎にケイちゃんと話しているところを見られるのは困る。よくよく考えると藤崎は関節的に私に大きく関係している人物のように思えた。彰人さんの弟であり、ケイちゃんと私のクラスメイトで、席まで隣だ。その藤崎にはどうにか根暗人間のまま通したい私だけど、かなり無理があるのではないかとも思った。それでもとりあえずやれるところまではやり通そう。今のところ根暗人間だと思ってくれているのだから。


楽屋内には忙しそうな空気が流れている。吉貴くんと彰人さんとベースのお兄さんは、藤崎を探している様子だ。「陽一のバカ何やってんだ。」という彰人さんの声が聞こえてきた。その直後、藤崎がケイちゃんと一緒に楽屋に入ってきた。

ケイちゃんと目が合う。一瞬、学校にいるような錯覚を覚えた。藤崎は吉貴くんたちに呼ばれて「早く準備しろ。」と小突かれている様子。忙しそうだから私の方は見ていない。その隙にケイちゃんがこっそり楽屋の裏口を指差した。外に出ようという合図だ。

私がその裏口へと歩き出すと、それに気づいた彰人さんがすかさず

「かずみ、どこ行くの?」と、言った。

「あははは、彰人は親かよ。」と吉貴くんがからかうように言う。言いたくなるのも分かるような、親の様な口調だった。注目なんて浴びたくないのに彰人さんにかまわれるとそういうわけにはいかない。カッコ悪いとは思ったけど、反抗期の子供のように無言で楽屋の裏口から走って逃げた。

「かずちゃん、どうしたの?」

すぐに後を追いかけてきたケイちゃんの声を聞いたらなんだか安心した。裏口を出たところから少し進んだところで止まり、ケイちゃんの方を向いて話す。

「彰人さんがすごいからかうから困ってた。」

「…彰人さん、かずみって呼んでたね。仲良くなったんだ。」

「なってないよ。」

仲良くなったとか、かまわれて喜んでいるように見えるのか嫌だった。だからどうしても否定したくなってしまうけれど、こんなときは余裕な態度で肯定した方が普通に見えるのかもしれない。だけどそれがなんとなく分かっていても、認めたくないからなのか、できない。そこら辺を子供だと言うのだろうか。

楽屋の裏口から西側へ回るとさっきの屋上へ通じるあの階段があった。茶色い扉から中へ入ってステージの脇から演奏を見ようと思った。オトナな人達のいるフロアへはやっぱり一人ではいけない。

「ケイちゃん、ステージの脇から一緒に見ようよ。藤崎は演奏してるからバレないよ。」

私はケイちゃんにそう言った。

「うん。でも暗いから気をつけなよね。」

「大丈夫、さっき奈落の底だって見に行ったけどコケなかったもん。」

「一人で?」

「え、あ、彰人さんと。」

「やっぱり彰人さんと仲良くなってんじゃん。」

仲良くなったというよりは、彰人さんが一方的に傍にくるというのが正しいとは思うけど、こういう時にそういう言い訳みたいなことを言うのもなんか違う気がする。

「会った時よりは…ね。」

「ふぅん。」

なんだか微妙な返事。吉貴くんもケイちゃんも私が彰人さんを好きになったらかわいそうだと思っているに違いない。私自身もそう思う。

「あ、それより、可愛い女の子いた?」

「は?」

「藤崎と女の子見に行ってるって吉貴くんが言ってたよ。ケイちゃんでも女の子見に行ったりするんだね。ゲームばっかやってるからそういうのは興味ないのかと思ってた。」

「えっ、女の子なんて見に行ってないし。」

よく考えればケイちゃんだって男の子なんだから女の子に興味がないわけはない。私でさえ彰人さんにドキドキしたりするんだから。でもそういうことを突っ込まれるのは恥ずかしいし、突っ込むのも恥ずかしい。その手の会話をケイちゃんとするのは私達の交友関係を乱すような気がして容易にはできないような気がした。ずっと先に何かがあるとしても今はまだこのままがいい。だからケイちゃんがそう言うならそのまま認める方がいいんだろう。

「そっか。女の子見に行ったわけじゃないのか。年上のお姉さんばっかりだしね。なんかちょっと恥ずかしいし怖いよね。」

「藤崎は騒いでたけどね。オレは苦手かな。」

そんな目線のケイちゃんに安心感を覚える。同じ目線で話ができるのがいい。気持ちの安らぐ時間を与えてくれるケイちゃんが、私にとってはすごく大切な友人になりつつあるんだと改めて実感した。

建物の中から1曲目の演奏が聞こえてきた。ステージはもう始まったらしい。

「ケイちゃん、見に行こ。」

「あ、ああ、うん。」

私たちは茶色い裏口の扉からものすごい音のする建物の中に入って行った。



リハーサルの時は音を聞いただけだったから分からなかったけど、本番ライブの熱気はまた違うものがあり圧倒された。みんなステージの上では別人みたいにカッコよかった。素直にカッコイイと思えたけどなぜか悔しさのような感情も込み上げてくる。お腹の底に響く低音がおへそのあたりでくすぐったさに変わる。私はいつの間にか両手の平をギュッと握って歯を食いしばり、何かに耐えるような姿勢になっていた。凄まじい感動が押し寄せてきてはいるのだけれど、それが自分でも分からないくらい複雑な感情で涙が出そうになる。ステージの脇でわなわなと震えてしまっていた。

衝撃。全てに衝撃を受けているからどこを注視していいのかわからない。吉貴くんがドラムをたたいている。別人のように真剣な姿がカッコイイと思ったけど、それよりもショックなのは、あの藤崎にあんなことができるなんて信じられなかった。藤崎のギターは悔しいけどすごかった。今まで生きてきて他人をこんなにも羨ましく思ったことはないかもしれない。彰人さんが女の子にキャーキャー言われているのが普通に思えたくらい、藤崎のことがショックだった。

私は絶対にあの場所に立つ。藤崎よりも見事にギターを弾いてやる。絶対に、絶対に。悔しさが納まらない私は、その感情を闘志に変えて自分を保たせるのに精いっぱいだった。

吉貴くんたちのバンドの演奏が終わると別のバンドの演奏が始まったけど、私はもう自分の感情に疲れ果ててしまい、他の人たちの演奏を見る気になれなかった。どうしても一人になりたくて、一緒にいたケイちゃんに声も掛けずにまた建物の裏口の茶色い扉に向かう。楽屋側の裏口に近づいて演奏を終えたばかりの藤崎の顔は見たくなかったから、建物に沿って楽屋とは反対側に歩いて行った。

楽屋の反対側から正面まで続く通路のような裏の敷地にはゴミ捨て場のような窪んだスペースがあった。そこを通り過ぎて正面へ出ようとした時、正面側から3人の女の人がこちらを見ているのに気がついた。その人たちは私をずっと見ている。見ながら何かを話し合っている。少し嫌な空気を感じた。

すると3人は私のいる場所へと進んでくる。ますます嫌な予感がしたし、いる場所が何とも言えないゴミ捨て場スペースという何かにおあつらえ向きな場所だったから、もう一度来た道を戻ろうとしたその時だった。

「ねぇ、逃げないでよ。話あんの。」

3人のうちの一人が言った。いかにもガラの悪そうな話し方だった。

あの人はもしかして怖い人じゃないですか、神様…と心の中で語りかけつつ、心臓はドキンドキンと跳ねていた。

このまま走り出して楽屋に行くこともできるけど、こんなことくらいでピーピー泣きつくのもどうかと思った。自分は何もできないと後で落ち込むならやってみて落ち込む方がいい。とりあえず何か言われるんだろうけど覚悟を決めて振り向こう。

私はその場に止まって静かにその3人の方を向いた。

「あのさ、あんた何なの?中坊だよね?」

初めからそんなあからさまに嫌な気分になるようなことを言われた私は、もうこの時すでにキレそうだったけど、吉貴くんに迷惑になるのではないかと考えて、とにかくだんまりを決め込むことにした。

「…………………………。」

「なんとか言えば?あんたのワガママで彰人に気ぃ使わしてんでしょ?ちょっとは自分の立場考えたら?はっきり言って、すごい迷惑。子供にこんなとこ来られても。」

なるほど、彰人さん関連だ。彰人さんとうろうろしているところでも見られたのだろう。でも彰人さんの行動なんていちいち私が指図しているわけじゃない。そんなことも分からないコウコウセイっているんだ。そしてこの人はなんてデカイんだろう。デブの豚さんだ。後ろの2人もブスだ。あとで彰人さんに自分の豚くらい躾けておいてくれと言おう。とりあえず今は、彰人さんとは無関係だと主張した方がよさそうだ。

「あのー、私は吉貴くんに見学に連れてきてもらっただけです。」

「あははははは、見学だって。見学。さすが中坊。それでも彰人が好きでまとわりついてんでしょ?彰人も迷惑してるんじゃない?必死になってる中坊なんて、見てりゃわかるんだよ、クソガキ!!おまえなんか相手にされるわけないだろ!」

…神様、ダメです。これから我慢強い子になるために修行しようと思いますが、今はもうダメです。この豚が私をクソガキと言いました。そして彰人さんが好きでまとわりついているとまで言うんです。私はまとわりついたでしょうか?まとわりついていたのは彰人さんじゃないでしょうか?それなのにこんなことを言われてしまうんですよ、世の中は怖いです。キレでもいいですか…

ゆっくりと頭の中で神様にお手紙を書き、心の中で吉貴くんに「ごめん。」と言った。それから深呼吸をして肺に空気を入れてから、狂ったようにまくし立てた。

「…っせーな!デブ。あんたデブなうえにバカ?よくそんなワケ分かんないこと言えるね。
そんなに彰人さんが大好きなら、さっさと当たって砕けてきな!
豚はあんまり好きじゃないと思うけどね、私が聞いてきてやろうか?
豚は好きかと!あーっはっはっはっは!!
彰人さんに相手にされないからって、私に当たるな。
恨むんならデブでブスなこと恨みな!あと、バカなこともね!」

私はダメージを与えられそうな、思いついた限りの言葉を、思いっきり言った。

シーンと静まり返ったこの空気。ああ、やってしまった。

たぶん無事では済まない。もしかしたら殴られる。でもこれだけ言ったらそうなるだろうと覚悟はできている。死なない程度にしてもらいたいと冷静に思った。そんな覚悟を決めた直後、真っ赤に怒った涙目の豚さんが、私をめがけて突進してきた。

「てんめぇー!!!!!!」

大イノシシみたいだと思った。超怖い。アレにガッツリやられたら相当痛いだろうな。でも、戦わなくてはいけない。とりあえず痛みと。

豚は突進してきたと思ったら、私の髪を思いっきりつかんで殴る。

ガツンっ!ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッガツッ!

いきなりのグー。しかも連打。そして顔。顔はヤバイ。あまり傷を作ると目立ってしまう。学校での根暗人間計画に支障をきたす。それにしても痛い。一応下をむいて後半はかばったので、顔に入ったのは最初の一発で済んだ。

前にもやられたことがある。生意気な転校生は苦労する。だから、根暗人間が一番だなんだ。でも今、痛くても経験があるから少しは平気でいられる。私は1対1でないときは下手に逆らわない方がいいことを知っているから、あとどのくらい耐えればいいだろう、と思いながら痛みに耐えていた。

豚の攻撃は続く。私のターンは永遠に来ない。

そして今度はうずくまろうとする私を軽々持ち上げて蹴り飛ばした。この豚は絶対心が病んでいる。普通は無抵抗の相手にここまではできないものだけど、少しの容赦もない。かなり痛いけれどまだ耐えられる。前の時のブッチャーに比べたら大イノシシの方がましだと思えた。

ゴフゴフと鈍めの音で腹のあたりを蹴られる中、私は声もあげずに堪えていたけれど、これ以上は厳しいと思い始めた時、誰かの声がした。

「おい、何やってんだよっ!!!」

よかった、助かった。しかも彰人さんだ。

「かずみっ、どうした!何してんの!」

彰人さんがうずくまる私を抱えるようにして、起こしてくれようとしている。でも私は彰人さんのことよりもイノシシ豚の歪んだ顔を見てやりたかった。運の悪すぎるイノシシ豚。まさか彰人さん本人にこんな場面を見られるなんて。恥ずかしいだろうか。悲しいだろうか。

「おまえら、何してんだよ!!!」

彰人さんはイノシシ豚にそう言った。

私はイノシシ豚の顔を彰人さんの腕の中から見る。今にも泣きだしそうな醜く歪みきった表情だった。かわいそう過ぎるくらいに醜いイノシシ豚。その顔を見ていると味わったことのない感情が生まれてくるのが不思議に思えた。それは、彼女の醜さが一瞬愛おしいような気がしたり、更に酷いことを言って追い詰めてやりたくなったり。

私が今すぐ泣きだして彰人さんにべったりと抱きついてやったら、彼女はどんな顔を見せてくれるのだろう。醜く歪んでその場に崩れ落ちるように泣きだすだろうか。それとも開き直ってバカみたいな言い訳でもするだろうか。それともしおらしく乙女のように謝るのだろうか。見たい。見た過ぎる…。
自分のそんな思考が不思議だった。でも私はかわいそう過ぎるイノシシ豚をこれ以上みじめにしないための行動をとることにした。想いを受け取ってもらえない相手をここまで想う醜い豚の気持ちも分からなくもない。変な葛藤だった。豚を追い詰めたい凶暴な気持ちが確かにあったけど、今はそこへ走ってしまうのも怖いような気がした。

とりあえず私が殴られてかわいそうだと彰人さんに思われなければ豚も少しは救われるだろうと考えた。殴られるヤツは殴られるだけの理由があることを明確にしておいてあげようと思った。豚のためというよりも自分のためでもあった。今のテンションならできる。

私は彰人さんの手を乱暴に払いのけてから立ちあがって、イノシシ豚を睨みながら言った。

「おい、豚!早く泣け。残念だけど、私は泣くほど痛くはねーんだよ!
あんたの大好きな彰人さんに見られたんだろ?早く醜く号泣してみな、このブス!
彰人さん、この豚はあんたが好きなんだって、早く慰めてやりなよね!」

自分でも最高に性格が歪んでいるのではないかと思えるほどのセリフだ。どれだけ性格が悪いのだろうと、ここにいる全員が思ったに違いない。もちろん彰人さんも含めて。やっぱり人が多くなれば多くなるほど面倒なことは起きる。そこら辺は中学生も高校生も同じなのかと思ったらアホくさくなってきた。

私はすっかり開き直って、楽屋の方向へスタスタと歩く。荷物を取ってもう帰ろうと思った。

「待てよ、かずみ。」

彰人さんが追いかけてくるけれど、今は振り向きたくもない。こんなことを堂々を言ってしまったからというよりも、殴られて腫れ気味の変な顔を見られたくないという、ずいぶん余裕な理由からだった。そしてこんな状況でもそんなことを思ってしまう自分もどうかと思った。

「かずみ、おい、かずみ!大丈夫なのかよ。」

「大丈夫。彰人さんモテるね。でも自分の豚はちゃんと躾けといてね。」

私は振り向かずにそう言った。

「おまえもさぁ、スゴすぎるだろ、アレは。」

「そうだね、吉貴くんに謝っておこう。でも彰人さんには謝らないよ。」

「おまえってさぁ、豚に豚って言っちゃうんだからヤバイよね。」

彰人さんに顔を向けたくないので、かまわずにスタスタ歩いて行こうとする私の腕を彰人さんが掴んだ。

「ちょっと待った、顔!殴られたんだろ?見せてみろ。」

だから顔は変だから見られたくないし、お説教も聞きたくないし、あんな問題発言したあとで彰人さんを見て、いちいちときめいたりとかしたくない。変な顔を見られたくないと思う事自体淡い恋心が作用しているとは思うけど、もうこれだけ性格の悪いところを見られてしまうとどうでもよくなる。もう近付かれるのが迷惑だと言ってしまおう。

私は振り向いて彰人さんの方を見て言った。

「顔は、大丈夫。ぜんぜん平気。あとね、彰人さん、あんまり私のそばに来ないでほしいの。だって、あいつらそれが面白くなかったらしーよ。大変だね、豚に愛されんのも。でも案外似あうんじゃないの?美女と野獣の逆バージョンで。
私を心配してくれんのはありがたいけど、ものすごい逆効果だから。そして、大迷惑。はっきり言って、コレ彰人さんのせい。もう勝手にやってて、私の知らないところでってカンジ。」

「ふっふふふ、ははっあっはははは。
おまえ、ホンットたくましすぎだろ。信じらんねー。最高。」

彰人さんがなぜ笑っているのかは分からないけどもうどうでもいい。何が最高なのか突っ込む気にもなれない。意味の分からない彰人さんに構わず、背中を向けて楽屋に行こうとすると、彰人さんはもう一度私の私の腕をガシッと掴んだ。そして、もう片方の手で、掴まれているのとは反対側の腕を前から掴むと、くるりと私を自分の方に向かせた。

びっくりしてしまっている表情と硬くなってしまう仕草を今は隠せる気がしない。余裕な態度は全神経を集中しないとできないから、今は無理。だからイライラする。

「ヤダッ!」

とっさにそう言って、掴まれた腕を振りほどいてしまった。こういう子供がすねているような態度とセリフだけは避けたかったのに。

彰人さんは少しも怯まずに、私の頭からスルリと頬のあたりに手を持ってくるように撫でた。自然に。普通に。優しく。まるで子供をあやすかのように。そして真剣な顔で私を見る。怪しい色気が漂う。この人は本当は妖怪だろうか。

「…ごめんね、痛かった? オレのせいだよね…。
傷が残ったら責任とってあげる。傷が残らなくても責任とりたいなぁ。今すぐ責任とりたい。ぁぁーとりまくりたい!
…でもなぁ…まだ、無理だよね…。」

私は彰人さんにべたべたと触られていることで、頭がどうにかなりそうだったから言葉の意味まで考えることができなかった。

「セキニンなんてとらなくていいからもうほっといて。」

責任の意味が少しも分かっていないこの時の私は、彰人さんがセキニンをとって豚に仕返しにでもいくのかと、本気で思っていた。そんな私に彰人さんは、

「ふふっ、セキニンとって送ってくよ。夜道は危ないしね。」と言い、私はもう彰人さんの一方的すぎるこの強引な展開に耐えられなくなり、「ヤダ!吉貴くんがいいっ!」と、主語も言わずにそれだけ叫んで、楽屋へと走って逃げてしまった。

その後、吉貴くんとケイちゃんと私の3人で家まで帰る途中、顔の腫れている私に起きたことを説明させられたけど、いろんなことがありすぎてうまく説明できたか分からない。吉貴くんにもケイちゃんにもいろんなことを言われたけれどちっとも頭には入らずに、衝撃や感動や嫉妬や怒り、それに崩れた恋心などがごちゃまぜになって全身を駆け巡っていた。

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