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B面トライアングル<4>

B面トライアングル<4> 【初めてのライブハウス1~奈落~】

生まれて初めて「ライブハウス」という所に来た。異様な雰囲気の漂う空間。オトナっぽい人たちばかり、しかも不良の?…人たちが集まるところなのかな。

きっと私はこの空間が好きになる。
私は不良にはならないけど、きっと好きになる。
根拠はないけれどそんなふうに思った。

ここでは、煩わしい人間関係なんて関係なくて、それぞれ人は好きな格好をして好きなことを叫び、好きなように生きているんだ。演奏する人も聞く人も、好きなように自分を表現して生きているんだ。もしかしたら、ここにいる人の中には、昼間の生活で「根暗人間」を演じている人もいるのかもしれない、私のように。


吉貴くんたちのバンドが出演するライブを見せてくれるというので、私は夕方から吉貴くんと一緒にいる。夜の外出は吉貴くんが一緒だからということで許された。両親は年の離れた出来の悪い妹にかかりきりだから、私のすることにはあまり干渉しない。ここへ引っ越して来てから、電車で2駅の祖母のところへよく出入りしているママと妹は、今日も夕飯を向こうで食べると言っていた。家族と行動したがらない私に「そういう年頃よね。」と言い、私は成績さえ落とさなければ自由すぎるほど自由だった。

「ライブハウス」に着くと、吉貴くんに楽屋というところに連れてこられて、ライブが始まるまではここにいてもいいし、その辺見てまわってもいいよと言われた。

楽屋の壁には無数のラクガキがしてしてある。キレイじゃない部屋。誇りとカビのような匂い。タバコの匂いの染み付いた、もとはオレンジ色なのかもしれない、今は灰色に染まったソファ。私の知らない世界。どうして、こんなに汚くしておくのかが分からない。何か意味はあるのだろうか。

いつ、誰が書いたのか分からないこの壁を埋めるようなラクガキ。卑猥な言葉が多いのはどうしてなんだろう。別にここはいかがわしい所でははずなのに。少し不安になる。

ラクガキは天井にまであるけど、どうやって書いたんだろう。すごく気になる。ラクガキを次々と目で追っていくと、どこか別の世界の入口のような真っ黒な扉に気づいた。何かの本で読んだ、開けてはいけない扉のように見えた。

吉貴くんたちはステージで準備をしている。リハーサル、音合わせ、私もいつかはそんな言葉をサラリと使う大人になるんだろうかと考えた。一つ一つ全てが新鮮だ。とりあえず始まるまで時間がありそうだったので、その辺を見てまわろうと動き出す。まずは吸い込まれるように、先程見つけた黒い扉に近づいて行った。

開けてはいけない扉が目の前にあって「絶対に開けてはいけない」と言われたとしても、私はたぶん開ける。開けないで後悔するよりは開けて後悔したほうがいいと思う。例え扉を開けてどんな目にあっても、開けたことを後悔せざるを得なくても。とにかく扉にたどり着けた喜びとその後の好奇心に逆らうことなんてできない。

私はゆっくりと黒い扉に手をかけて開け、静かに中に入ってみた。

薄暗い通路。あちらこちらに何かの残骸。何かはワカラナイものばかりだけど、残骸という言葉がふさわしいモノたち。それらを踏ん付けないように慎重に進む。まるで物語の中の恐ろしい建物の中にいるような気がした。

しばらく進むと、人がひとりやっと通れるくらいの地下に向かう階段があった。こんな無理な作りの階段は初めて見る。建物なのに、こんなに通りづらい通路を作るなんてありえるんだ…と、異様な感動のようなものがあった。私にはまだまだ知らないことがたくさんあることが再確認させられる。

私はその階段を、もちろん降りて行きたいけれど、はっきり言って怖い。だって、階段の先はびっくりするほど真っ黒で明かりがついているようには見えないのだ。一体何があるのかもこんなに暗くては分からない。でも、足を踏み出さなければ何も見えてくるはずはなくて、先を知りたければ自分で歩いていくしか方法はない。

心の準備をするために、深呼吸をする。
真っ黒な闇の世界へ続く階段に一歩足を踏み出した時だった。

「かずみちゃん?」

誰かが私の名前を呼んだ。一瞬、心臓が喉のあたりまでジャンプしたみたいに、びっくりしてしまった。心臓をバクバクさせながら振り返ると、そこには彰人さんが立っていた。

「あ、彰人さん…。」

彰人さんだ。この間ケイちゃんの部屋で会って以来だ。不覚にもドキドキして緊張してしまったあの日の自分がずっと情けないと思っていた。冷静になろうと思考を整理する。カッコイイ人はブラウン管の中にだっているんだ。芸能人だってカッコイイ。そういうものだと思えばきっと大丈夫。それに私はギターに近づける感動を味わうためにここに来たんだから、その感動に集中して彰人さんに振り回されないようにしよう。

「あの、ども、…こんにちは…です。」

冷静であるかないかという前に、バカ丸出しの言動をしないように考える必要があったのではないかと思える間抜けな言葉を発した自分にもう嫌気がさした。
普通の人が普通に知っている人に会って挨拶をし、「今日は天気がいいですね。」みたいな何気ない会話をしたいだけなのにできないのはどうしてなんだろう。
「こんにちは、ライブ頑張ってください。」とサラリと言うだけのことじゃないか。

そうだ。彰人さんを見ないようにして、そして違う人だと思い込もう。近所に住むおじいさんだと思うのはどうだろう。おじいさんに対して心臓は反応したりしないはず。おじいさんには緊張しない。目の前にいるのは彰人さんじゃなくて、おじいさん。おじいさんなんだ!そう思って頑張ってみようと思い、もう一度口を開いた。

「おじさん、頑張ってください、それでは。」

見事な失敗だ。私は彰人さんの方を見ていないけれども、自分の口が発してしまった言葉にびっくりするような単語が混じっていることにより、別の意味でもう彰人さんの方を見たくない。おじいさんがおじさんに変換されていることが妙におかしいけれど笑っている場合でもない。

「おじさん!!かずみちゃんから見てオレおじさんなの?!
相変わらず辛口なんだね、かずみちゃん。おじさんってオレまだ17だよ?」

もう朽ち果ててしまいたいと思うけど、人間は一瞬で朽ち果てたりする生物ではない。だから私はこういう余計なことに対してもまた会話という手段にて事態をどうにかしなくてはいけないから、覚悟を決めてちゃんとしよう。はい、心の準備、1.2.3…

「ぴちぴちの14歳の子供から見れば17歳なんてヨレヨレのおじさんですよ。でもステージ楽しみにしてます。今日は吉貴くんに連れてきてもらえてすごく嬉しくて、なんだかドキドキしてます。」

そう、全神経を集中すればちゃんと会話が成立するはずだ。頑張れ自分。

「ああ、吉貴から聞いてるよ、ギター弾きたいんだよね?
吉貴よりオレの方がうまいよ?教えようか。ふふっ、おじさんだけど。」

「いえ、ダイジョブです、まだホントの初心者だし、吉貴くん家も近いし。」

ふざけるな、彰人さんになんて教えてもらえるわけがない。神経がおかしくなって死んでしまう。

「えー。オレだって吉貴のトコ通っちゃうけどなぁ…。」

「はは…、ホントにダイジョブです。」

意識しないように心掛ければなんとかなる。そしてできるだけ近寄らないようにすれば問題はない。こうやって少しづつ免疫を作って完全に平気になる日を待とうと思った。

それなのに、心の中が穏やかではない状態でこうやって頑張って会話に集中する私のことなど分かっていない彰人さんは、スタスタと歩いて私の目の前までやって来る。2メートルくらいはあった距離をいきなり10センチにできる彰人さんの神経をへし折ってやりたいと思った。そして、薄暗く狭い通路に彰人さんと至近距離で2人きりだと思うとなんだか息苦しくなってくる。おそらくこれも制御しきれていない私の心の問題だ。

「ねぇ、かずみちゃんはこんなところで何してたの?」

たったそれだけのことを聞くために10センチのところにまで近付いてくる必要はあるのかと聞きたい。近いだけで心拍数は上がるから会話に支障も出てくるのに。でもジタバタしても尚更恥をかくだけだ思うから、とりあえず今は冷静に、普通に会話することに専念しよう。

「今、そこの…階段の下に行ってみようと思ってたんです。」

「え?そっちは奈落だよ。電気つけないと真っ暗。」

「えっ、奈落?「奈落の底」の奈落ですか?地獄とかの?」

「ははっ、別に地獄とかじゃないよ。
舞台の装置があるだけかな?なんかの機械だらけ。」

「そ、そうなんですか。地獄の底がこんなとこにあるのかと思いました。あ、それより彰人さん準備とかはもう終わったんですか?」

「ああ、今みんなセッティングしてるよ。オレはマイクだから一番最後。楽屋にかずみちゃんいるって聞いて見に来たらこんなとこにいた。」

普通に会話が続くのはいいけど、彰人さんの言葉は返答に困るようなことが多い。気にしてしまうような言葉を全て無視して会話を進めることしかできない。

「暇だったから、ちょっと探検してました。
なんか、すごい初めて見る世界なんで。」

「何か面白いものでも見つけた?」

「はい、これから見つけますきっと、奈落の底で。」

「奈落に降りんの?暗いよ?もしかしたら地獄の底かも。」

地獄の底かも…と私を見て言う彰人さんと思い切り目が合ってしまった。油断した。ゾクっとするこの感覚はなんだろう。あんまり目を離さずにいると囚われそうだ。不自然にならないようにゆっくりと目を逸らして、早く彰人さんから遠ざかろうと思った。

「大丈夫です、気をつけて行ってきます。
それじゃあ準備頑張ってください。」

「あ、待って。オレも行こ、かずみちゃんと奈落デート。
二人で地獄に落ちよっか。」

「……………………。」

彰人さんのこういう軽い所が苦手だ。サラッとドキッとするようなことを平気で言う。もっとオトナな人たちはそういうのが平気なのかもしれないけど、私にはまだ免疫がない。ドキドキするなという方が無理だ。それにこうなるとうまく切り返せなくてこうやって沈黙を作ってしまう。

普通にしてたって見とれてしまう存在なのに、そんなに気軽に私のそばへ来て色気をふりまいてほしくない。こんな瞬間だって動揺してるのがバレないかと緊張してしまうのに。そういう意味ではものすごくムカツク。だから「負けるな」と自分に言い聞かせてもう少し頑張る。

「ダイジョブです。一人で行けます。地獄の底へ道連れなんて、そんな極悪人じゃありませんから。それに彰人さんまだ準備終わってないんですよね?ステージ戻った方がいいですよ。」

「んー、ダイジョブ、ダイジョブ、ここけっこうゆっくりだから。
行こ、奈落。見たいんでショ?」

「……………………。」

だめだ。負ける。見たいのは見たいけど、一人でゆっくり見たいんだ。彰人さんと一緒だと、気になって観察どころじゃない。でも「大迷惑なんですよ」とまではさすがの私も言えない。

それにしても彰人さんと一緒にいて緊張しない女の人なんているのだろうか。彼女さんとかは緊張しないでいられるのかな。自分がつくづく子供で経験が不足していることにやり切れない気持ちになった。そんな私にはおかまいなしに、彰人さんは私を導くように、先に奈落へと伸びる階段を2、3段降りて、私に向かって手をさしのべた。

「行こ。」

ちょっと待って!その手を取れと?

彰人さんの行動にいちいち動揺してしまう自分が情けない。瞬間的に何の感情もなくその手をとることができないのは、やっぱり意識している証拠だ。しかも彰人さんはぜんぜん意識していないからこんなことが出来るんだろう。この差が悔しい。あんまり悔しいから私は気合でその手を取った。何も考えていないふうを装って。
まるで美しい悪魔に地獄に招待されているように思えた。

繋いだ手は少し冷たくて、大きくて骨っぽかった。

「気をつけて、ここ狭いから。」

彰人さんは私の手をひいて暗い奈落の底へと降りて行く。私は手が汗ばむのを心配しながらおぼつかない足取りで奈落へと続く階段を一歩一歩進んだ。

階段を降り切ると、狭いけれどスペースがあった。目が慣れたこともあって、周りの様子が少し分かる。ごちゃごちゃとなにやらいろんなものが置いてあるようだった。もう階段が終わってしまったのに彰人さんはまだ私の手を離さない。早く離してもらわないと汗が限界だ。緊張してるのがバレてしまう。

「彰人さん、あの、手を…離してください。」

「ねぇ、かずみちゃん…その敬語やめない?」

「は?………。」

なんでこの人はこういうわけのわからない切り返しするのだろう。イラっとしてしまうのも事実だ。

「あの、手を…。」

「かずみ…って、吉貴が呼んでるよね、オレもかずみって呼んでい?」

あ、ヤバい。名前を呼び捨てで呼ばれただけで、またドキッとしてしまった。自分で思っているよりも彰人さんを意識しているのは間違いない。ぜんぜん意識しないようになんてできていない。この前吉貴くんに、絶対彰人さんを好きならない、好みじゃない、なんて大口叩いたくせにコレだ。カッコ悪いにもほどがある。それよりも手を離してもらわないと。

「あの、だから、手を…。」

「いいよ。って言ってくれたら離してあげる。」

「…なんですか、それ。」

「ほらぁ、その敬語やめよって。敬語なんてつまんないよ、オレ。」

なんじゃそら。敬語につまるもつまらんもあるのか!と突っ込みたい。でも突っ込めない。突っ込めないということは逆らえない。

「あ…じゃぁ分かりました…じゃなくて、分かった。」

「で、かずみって呼ぶよ?」

「はい、あ、えと、うん。」

なんだっていいじゃないか、呼び方なんて。そうやって近づいてこられると心臓が制御不能になってしまう。「恋心が育ってしまうのてやめて下さい」とは死んでも言えないけれどそれが事実だと自分で分かっているから苦しい。それなのに彰人さんが容赦なく高レベルな攻撃を仕掛けてくる。

「かずみ。かずみ…かずみ。」

「なんですか!」

「ん?なんか呼んでみたくって。ほらまた敬語になってる。」

「あ…。いきなりはムズカシ…。」

そんなに名前を呼ばれたら、誰でも普通にドキッとすると思う。ムカつく。イライラとドキドキは一緒に味わうと恋心なのか。いや、そんなわけはない。それに手、手を離して欲しい。

「彰人さん、だから、手を!」

「そして、彰人って呼ばない?「さん」とかやめて。」

なんなんだ、この人は!頭にくる。そういうぶっ飛んだ返事は本当にやめてほしい。私をからかっているのだろうか。私が彰人さんといて緊張するのを分かっててやっているようにしか思えない。私はこうなってくるとストレスが限界値に達して言いたいことを言ってしまう。

「呼ばないよっ。手、早く離せ!早くステージ戻りなよ彰人さん、からかわれるの嫌いだって言ったでしょ、もっと普通にしなよねっ。」

「ふふっ。からかってないよ?」

私は彰人さんと繋いだ手を乱暴に振り払って、今来た階段を走って駆け上がった。

もうヤダ、彰人さんは疲れる。普通でいられない自分に腹が立つ。一体どうすればこの異常すぎる私の感情を制御できるのだろう。

楽屋に入ってバタンと扉を閉め、気持ちを鎮めようとした。ふと見た鏡に移った自分の顔がとても赤かったので、奈落が暗いところでよかった思った。気持ちを鎮めたいのに繋がれていた手を見ると感情の渦巻きが速度を増してぐるぐると回り出してしまうようだった。

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