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B面トライアングル<3>

B面トライアングル<3> 【彰人さんの弟】


私が転校してきてから二週間がたった。ということは、「根暗人間計画」を遂行し始めてから二週間がたったという事だ。計画は成功と言える。クラスでの私は口数が少ないつまらない人として存在付けられようとしていた。ケイちゃんとは時々目があうことがあるけれど決して話しかけたりはしない。「根暗人間」にスキャンダルは一切禁止なのだ。

そして学校から帰って、制服を脱ぎ棄てると私はケイちゃんの部屋へと向かい、ゲームをしたり本を読んだりして一緒の時間を過ごした。学校という場所でもケイちゃんと同じ教室にいるはずだけど、そこは別の世界だと割り切って、お互い接点を持たないように気を付けている。学校でのケイちゃんは特定の友人何人かと一緒にいる。うるさくもなく大人しくもない普通な塊で「成績がまぁまぁ良い人たち」に属するような塊に見えた。

学校と家で使い分ける私達の関係はおかしなもののようにも思えたけれど、慣れればなんということもなくそれが普通な日常になってくる。そしてケイちゃんの部屋では時々吉貴くんがきて一緒にゲームをすることもあった。そんな時間はまるで仲の良い兄弟のような空気が流れていた。

吉貴くんとの話の中で、この間来ていた彰人さんと吉貴くんはバンドをやっているということが分かった。私はあまりにもカッコイイ彰人さんにドキドキしてしまった自分をしばらく許せなかったので、私の脳内から彰人さんのことを追い出すためにも彰人さんの会話は避けたいと思っていたけれど、バンドの話をされてしまうとどうしても聞くことになってしまう。

それにバンドの話はぜひとも聞きたい。私もバンドにすごく興味がある。どうしたら近づくことができるのか、どうしたら自分もやることができるのか、小さなことでも聞き出したくて仕方ないのだ。小さい頃からピアノをやってきたけれど、最近父にフォークギターを買ってもらった。でも弾き方も音の調節の仕方も、何も分からない状態で、これからゆっくり本を買って勉強しようと思っていたところだった。吉貴くんにバンドの話を聞いた時、私はなんだか心がはやった。ザワザワした。この新鮮な感動を忘れなければ、こちらの感動の方を常に心に定着させてれば、彰人さんが多少カッコイイなんてことはそのうち気にならなくなるだろうと思えた。そのくらいの心の揺れ動きがあったと自分で思ったのだ。

だから私は吉貴くんに正直にバンドに興味があることや、ギターを弾けるようになりたいことを伝えた。私がその話をした時、吉貴くんは、早速自分の部屋へ私を連れていき、まずは部屋にあったエレキギターを私の手に持たせてくれた。

「おぅ、いいね、似あうよ。見た目バッチリ!」

「吉貴くん…見た目は関係ないよ…。コレを自在に弾けるようになりたいなぁ。すごいカッコイイよね。吉貴くんはギターは弾けないの?」

「オレはドラムだからなぁ。ギターは弾けるって言えるようなレベルじゃないよ。彰人はまぁまぁ弾けるよ、ヴォーカルだけどね。ベースは高校の友達で、ギターは彰人の弟なんだ。彰人の弟って慶太とクラス同じだよ。あ、って事はかずみとも一緒か。」

「えっ、ホント? クラスにバンドやって、しかもギター弾ける子いるんだ。ええっ誰だろう?彰人さんの弟さん?彰人さんて苗字なんて言うの?」

私は自分のクラスにギターの弾ける子がいることにとても驚いた。そしてその子と仲良くなれるなら根暗人間なんてやめて、ちゃんと自分を出して学校生活を送ってもいいと思った。好きなものを通して理解しあえる友人を作れるのなら、煩わしくても人との関わりをちゃんと持つ努力をしようと、一瞬、本当にそう思ったのだ。吉貴くんの口から信じられない彰人さんの名字を聞くまでは。

「彰人の名字?名字は藤崎だよ。」

…ふじさき…藤崎。隣の席の最悪な男、藤崎。残念ながらあのクラスに藤崎はアイツしかいない。彰人さんの弟が藤崎。嘘であってほしい。

藤崎には転入3日目くらいまではいろいろとちょっかいを掛けられたけれど、ものすごく我慢して我慢して、やわらかく無視し続けた。今ではそんなに興味もなくなったみたいで、あまり絡まれなくなったけど、それでも席が隣だから何かにつけてからかい半分のような言い方をされる。それで切れたら終わりだと、そこでは更に気合の入った我慢をして頑張っている。でもよくよく考えたら私は藤崎と彰人さんに同じような波長を感じたことを思い出した。私が最も苦手とするタイプでイライラさせてくれるところがそっくりだ。

顔も彰人さんほどの美形じゃないにしろ、カッコイイ部類に入るんだろう。あの藤崎がギターを弾くなんてやっぱり信じられないし、信じたくない。
私はケイちゃんの部屋に戻り、クラスメイトの藤崎のことについて聞いてみた。

「ねぇ、ケイちゃん、藤崎って彰人さんの弟なんだ?」

ケイちゃんはベットの端に寄りかかって気だるそうにゲームのコントローラーをカチカチいわせて、ロールプレイングゲームのレベル上げをしつつ話す。

「うん、そうだよ。かずちゃん隣じゃん。
いつも迷惑そうな顔してるけど、あれホントはすげー我慢してる顔だよね。」

「うん…。だってムカつくんだもん。
ケイちゃんは藤崎とあんまりしゃべらないね。仲悪いの?」

「あー別にそういうわけでもないけど、オレあーゆー風に目立つの苦手。
なんといってもオタクのゲーマーですから。」

私にゲームオタクと言われたことを根に持ってるらしい。

「藤崎ってギター弾けるんでしょ…。上手いのかな。」

「藤崎に興味あるの?」

藤崎に興味があるのかという問いかけに、素直に「うん」とは言いたくなかった。藤崎がどのくらいギターを弾けるのかということに興味があるけど、でもそれも藤崎に興味があることには変わりない。少し考えて、

「ギターに興味があるの。」と答えた。

私は好感のもてない藤崎が、私の憧れていることをやっているということに軽くショックを受けていた。私がとても遅れているというか、モタモタしているように思えた。行動力はある方だと思っていたのに、今何も出来ないで憧れているだけの自分が悔しいと思った。私の勝手な嫉妬により、藤崎を更に嫌いになりそうだった。

「藤崎はけっこう上手いみたいだよ?高校生の中でやってるくらいだからね。」

やっぱり上手いんだ。でも、ここで妬んでいるばかりでは絶対に前に進めない。敵が前にいるなら追い越せばいい。努力して追いぬいてこちらが前を行けばいいだけだ。私は、同じ年のしかも嫌いな藤崎に勝手に闘志を燃やし、とにかくギターを弾けるようになることを目標にすることに決めた。



次の日私は学校で、藤崎への接触を試みようと考えていた。でもいざこちらから話しかけるとなると、いろいろ問題がある。一番心配なのは、私がイライラに耐えられなくなってぶち切れてしまわないかということ。あと、藤崎に「バンドに興味をもつ女」と思われるのもどうかと思う。根暗人間とバンドはいまいち組み合わせとしてはおかしいような気がする。どうにかしてギターのことを聞きたい気持ちと、根暗人間を頑張る気持ちが入り乱れて苦悩した。

だけどやっぱり聞いてみよう、もしかしたら興味深い話も聞けるかも知れない。

私は思い切って藤崎に話しかけた。

「あのっ…ふ、藤崎くん。」

「ん?なにぃ~?」

藤崎相手なのに、なぜか少し緊張している。あんまり変なふうにならないように言葉を選ぼう、そして根暗人間もちゃんと続行しよう。

「あの…吉貴くん…から聞いたんだけど、あ、吉貴くん幼なじみで。
一緒にバンドやってるんだってね…。」

「え!吉貴さんと知り合いなの?!幼なじみ?へぇ~、オレら月2くらいでライブやってるよ。ライブハウスうちの親のビルなんだ。今度遊びに来る?
ん?アレ?ってことは、立河慶太とも幼なじみ?だって吉貴さん、あいつの兄貴だよ?」

…ああ、私はバカだ。ギターのことしか考えてなかったけど、ケイちゃんと吉貴くんは兄弟なんだから、こんなこと言ったらケイちゃんと知り合いだっていうことがバレるに決まってる。どうしよう。なんとか誤魔化さないといけないけど、どうにもならない。

「う、うん。立河くんね。
そう、吉貴くんと同じ幼なじみってカンジ?かな。あははは。」

挙動は不審だ。それに何気なく認めてしまった。こうなったら立河兄弟のことにはもう触れず、ギターの話に切り替えよう。

「そ、それでね、私もギターに興味あって、
弾けるようになりたいな…って思ってるんだ。」

「へぇー。ギターね。でも女にはどうかなぁ…。
お手々痛くなっちゃうよ?バンドやってる彼氏作ったほうがいいって。
誰か紹介しよっか?
それよりさぁ、立河と知り合いなんてぜんぜん分かんなかったよ。
学校でしゃべんないじゃん。なんで?
あっ、もしかして学校にはバレない秘密の関係?なんてなー。」

張倒したい。やっぱりどうしても好きになれないタイプだった。お手々が痛くなるとか、バンドやってる彼氏とか、ふざけんなこの色ボケ野郎!と叫びたい。絶対分かりあえない自信がついた。もうこいつとは話をするのはやめよう。それよりもケイちゃんのことを変なふうに言いふらさないか心配だ。なんとかフォローを入れておこう。

「あ、あの、立河くんのことは…家がすぐ近くだけど今はぜんぜん話したりしないの。吉貴くんにはたまたま、偶然会って少し話しただけなの。ギターは、そうだね、お手々痛くなっちゃうもんね。やめた方がいいかな。でも彼氏とかはまだ考えてないの。じゃぁ頑張ってね、バンド。」

私は精一杯の造り笑顔で対応した。話しかけたことをものすごく後悔しながら。



その日、家に帰ってからケイちゃんの部屋へ行き、学校で藤崎に話しかけたことによりケイちゃんのことがバレてしまった経緯を話したら、

「バカじゃねーの。」と、一言。

それはその通りだと自分でも思ったけど、ケイちゃんには正直に思ったことを言えてしまうのが不思議だ。

「だってさぁっ、ギター弾けるっていうから、なんていうか、いいなぁって思って。私もギター練習して弾けるようになりたいんだもん。あんな、お手々痛くなっちゃうとか、バカにしてっ!もーすんごいムカついちゃったよ。あいつとはもう絶対口きかない。」

「そんなに悪い奴でもないんだけどね、藤崎。
でもかずちゃんとは合わなそうだ、たしかに。」

そういいながら少し笑っているみたいなケイちゃんがちょっと憎らしかった。でもその後に大人っぽい笑顔を向けて、

「最初はうちの兄貴に教えてもらったらいいじゃん。
部屋にギターあるし。兄貴、少しは弾けるよ。」と、優しく言った。



私が前にいた土地で習っていたピアノ教室のいくつかあるスタジオでは、ギター教室もやっていてスタジオの開け閉めの時に漏れる音を聞きながら自分も触ってみたいといつも思っていた。だから私がギターを弾きたいと思う気持ちは、「この曲が弾きたい」という思いではなくて「この音色で何か弾きたい」というものだった。

それから「ロック」と呼ばれるジャンルの曲のことは実はよく知らない。テレビのブラウン管からは聞いたことのないような曲ばかりだということは知っているけど、まだ「これが好きだ。」と断言できるような曲には出会っていない。

それでも行きたい。こんな世界に行きたい。近づきたい。きっとなにかある。私の心を震わすものはここにある。急いで。どうしたら?何をしよう。と、妙に胸が踊り、騒ぎ、とにかくじっとしていられなくなるほど、バンドの世界や音楽の世界に憧れる気持ちでいっぱいになった。でも実際この年齢では何をどうしたらそこへ近付けるのかが分からない。買ってもらったフォークギターとにらめっこしていても何かが進んでいくとは思えなかった。結局何もない自分と何もない毎日を繰り返しつつ、憧れているだけの自分を悔しく思いながら何もかも面白くなくて根暗人間として過ごしている。

そんな気持ちをどうやって表現していいのか分からない私にとって、吉貴くんのそばにいられることは嬉しいことだった。毎日ケイちゃんの部屋に通うのはケイちゃんと一緒にいるととても安心できるのもあったけど、吉貴くんにバンドの話を聞けるからというのもある。

ケイちゃんにとっては迷惑だろうか。ケイちゃんはいつも何も言わずに私と一緒にいるけれど、私がこんなに一緒にいたらもしかして自分の友達と遊べなくなったりしないだろうか。私は好んで友達を作らないけれど、ケイちゃんはそんなことはないはず。そんなことを考えたら急に不安になった。

「ねぇ、ケイちゃん、私がここに毎日来ると、
もしかしてケイちゃんが友達と遊べない?」

「はぁ?そんなことあるわけないじゃん。」

「え、…えと、迷惑じゃないのかなぁーと思って。」

「別にそんなこと思ってないよ。友達と遊びたかったら勝手に遊ぶ。」

だけど、私が来るようになってからケイちゃんはこの部屋でいつも私と過ごしている。あまりにも自然すぎる猫の兄弟のように。待っていてくれたかのようにジュースのグラスを二つ用意して。

「ケイちゃんて、けっこう優しいとこあんだよね。
オタクのゲーマーの猫背の地味男なのに。」

「かずちゃん…何その、猫背の地味男って…。」

「ん?あ、ゲームやってる時姿勢悪いよ、ってこと。
ねぇ、早く次の町行こうよ。もういいんじゃない?レベル充分。」

不機嫌そうに、仕方ないヤツだなっていうケイちゃんの表情がけっこう好きだ。友達だと思える瞬間でもある。

「かずちゃんが、勝手に進むなって言うんじゃん。」

「あ…ねぇ、もしかして私に友達がいないからかわいそうって思ってる?」

「ないよ、それだけは。」

「そっか。じゃぁいいんだけどね。」

ケイちゃんがいてくれてよかったと心から思う。このまま高校生になって、恋心とかが芽生えて、そしていつか手を繋いだりする日がきたら、きっと照れちゃうけどそれはそれなりに楽しいのかもしれない。そんな日が来たら笑っちゃうような気もするけど、正直悪くもないと思った。

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