<< PREV | PAGE-SELECT | NEXT >>

>> EDIT

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

| スポンサー広告 | --:-- | comments(-) | trackbacks(-) | TOP↑

>> EDIT

B面トライアングル<24>

B面トライアングル<24>【グリーンスリーブス】



浮気現場を目撃してしまった最悪な思い出が追加されたライブの日から数日が過ぎた。彰人さんの部屋に2人きりでいれば余計なもめ事はない。でもいろんなことがありすぎて、ただ楽しくて幸せを感じる時間というよりも、思い出せば切ない空気が突き刺さるような時間が多い。ケイちゃんのこと、彰人さんの浮気のこと、それから浮気を封じたことによる私の身体的負担。自分に負担が来るなら浮気なんてさせておけば良かったかもしれないとも思ったり。

そしてその想いは全て楽器へと注ぎ込まれる。でもなぜか私はその音が好きでたまらなくなった。苦しみと焦がれる思い、そして伝わる悲しみと愛情、頭で考えたらすっかりわからない複雑な感情は、身体で感じ取って身体で表していた。そうすることで自分を保ち続けられるような気がしたから。

外は冷たい風が吹く。彰人さんの部屋に来るのが何度目か数えることをしなくなって少したつ。それでもまだ、彰人さんの美しさに目を奪われて、そして毎回どこかに落ちて行く。それは決してふわふわと舞いあがって行ける場所ではなくて、深く深く落ちて行く場所なのにぜんぜん違和感がない。私はその昔、きっと真っ黒なところに住んでいた住人なんだろう。そして彰人さんも。

部屋で2人きりで過ごす時は、身体を重ねた後、必ずギターに触れる。藤崎程ではないけれど彰人さんもギターに関してかなりの腕をもっていることがよくわかった。彰人さんが私にお気に入りの曲だと言って教えてくれた曲がある。意外にもアコースティックギターで綺麗に弾いたその曲は「グリーンスリーブス」だった。

この部屋で初めて聴いた曲は、恐ろしい状況の中でのドロドロとした恐ろしい曲だった。綺麗な彰人さんの心の歪みを反映したかのようなその曲に妙な愛しさを感じだけれど、それを全て受け入れるには私にはまだ早いような気がした。心に許容量のものがあるとしたら私の心は与えられたもの一つでパンクしそうなほど狭い。だからいつも苦しくて不快でどうしようもなくなる。

でも彰人さんが私に教えてくれたのは「グリーンスリーブス」という綺麗で悲しげな曲。繊細なメロディラインが美しい。夕方の光が差し込む中で彰人さんがゆっくりと私に聞かせてくれたこの曲は、それまでの恐ろしさや汚さや醜さで溢れた行為を全て洗い流して、神聖なものに変えてしまうように神秘的だった。前に彰人さんが私に歌を歌ってくれた時のことを思い出してドキドキしてしまうほど。確実に存在していた恋心はどんな形であれ叶えられて今、目の前に愛しい人がいる。そんなふうに思うと何かが満たされていくのだけれど、私の思い描いていた心の温まる恋愛とは違いすぎて悲しさがつきまとう。そんな雰囲気にぴったりの曲で心が震えた。

丁寧に私の指を導く彰人さんの優しさが痛いくらいに心地良かった。彰人さんが怖かったから、私は彰人さんを知ろうとはしていなかった。でも彰人さんは一度だってそんな余裕を与えてくれなかったと思う。大人になったら関係なくなる年の差でも、中学2年生と高校2年生はきっとぜんぜん違う。容赦なく私を奪う残酷な彰人さんは私にとって怖い存在であたりまえだ。でもこうやってたくさんの時間を過ごせば気持ちは変化していく。彰人さんはそれを知っているから、私をこうやって傍に置いて、そして私にグリーンスリーブスを教える。綺麗さに奪われた心を今度はその内面の魅力に繋ぎとめるために。

彰人さんは会う度にギターの腕が上達する私をとても可愛がってくれた。肉体的なアレコレを嫌がらなければ彰人さんはそれなりに優しい。そんな優しさを知るたびに速度を増して魅かれていくのもわかったけれど素直に認めたくない。だから私は一心不乱に音を奏でた。何も考えられないくらいに一生懸命弾くしかなかった。

彰人さんは「そのうちオレなんて追い抜くね。」と嬉しそうに笑うと私の頭を優しく撫でる。私はその瞬間がすごく好きで自分のためだけでなく彰人さんのために一人でいる時のギターの練習時間を増やしていった。

私はそんな「グリーンスリーブス」の切ない音色を今日も奏でる。彰人さんの傍で。



ふとした瞬間に彰人さんに見つめられているのがわかると、その目はいつも妖艶でこの人にハマってしまったらもう私は私でいられなくなると思わないではいられない。正直なところ、最近は苦しいくらい、自分から触れたくなる時がある。でもそれを悟られたくなくて、できるだけ意識を別のところに持って行こうと試みる。だから私は、何とも言えない苦しい思いをぶつけるようにグリーンスリーブスを弾いた。

彰人さんはそんな私を愛おしそうに見つめながら言う。

「すごいね、かずみは音でもオレの心を奪うんだ。
オレは陽一のキレイな音より、かずみのその大胆で凶暴な音が断然好きだなぁ。」

何気ない彰人さんのその言葉は、今までのどんな言葉よりも私の胸に響いた。私の音が好きだと言ってくれたことが、私を好きだと言うよりも嬉しかった。身体が反応するくらいその言葉に感じた。

思わずそっと彰人さんに近づいて、そして私は初めて自分から彰人さんに手を伸ばす。
彰人さんは悪戯に微笑んで、

「どうしたの?オレが欲しい?」と聞いたから、私は

「…うん、欲しい。」と素直に答えた。



静かな空気がゆっくりと流れるこの2人だけの密室で、不器用で歪で不確かで醜い愛を綺麗に育むと、一体どこに辿り着くだろう。そんなことを考えながらゆっくりと彰人さんに触れる。彰人さんの何かに火がつく瞬間が少しわかるようになった。でもそんなことがわかってくると何とも言えない「違和感」のようなものがチラつく。何に対しての何の違和感なのかがわからないけれど、私は彰人さんに何か別の性質のようなものを感じ取っていた。

その答えが何なのか、頭では少しもわからない。だから考えない。私はこの瞬間に私の身体で感じることを表現するだけ。赴くままに行動するだけ。ほとんど無意識に彰人さんの腕の中に滑り落ちて、そして彰人さんのシャツのボタンを外した。

私を見守る彰人さんは動かない。私に好きにさせている。シャツを取り払うと眩しい白い肌に美しくいやらしい鎖骨と、形がはっきりわかる肩の骨にゾクゾクしてしまった。見ることで欲情するというのはこういうことかもしれない。余裕をもってドキドキした。そして私はサラサラとゆるく彰人さんの肩を撫でる。じっと観察すると彰人さんの肌が鳥肌に変わる瞬間が見えた。細胞の変化が宇宙的な何かか、原始的な何かか、ミクロ的な何かを連想させる。触られるのではなく触るのがこんなにも楽しいとは知らなかった。

妙に興奮してしまった私は、腹立たしいわけでもないのにあまりに愛しくて美味しそうな彰人さんの肩にいきなり強く噛みついてしまった。

「あっ……、」

小さく声をあげる彰人さんの切なく見える恍惚とした表情を間近に見てしまった時、違和感が何かと繋がった。

…もしかして、この人は痛みを求める?…

パズルの欠片が次々と頭の中で猛スピードではまっていくような感覚に陥った。気付いてはいけない何かに気付きそうで心臓が高鳴る。全てに納得がいくような答えがすぐそこにあるような気がした。

彰人さんが多少変なのは「変」として受け取っていたけれど、どのように「変」であるかについては考えたことがなかった。とにかく私が何を言っても何を断っても絶対に自分の好きにしかしない。「ヤダ。」という言葉に対して、思いやりのある態度で優しくしてもらったことがない。

私はまだ中学生だというコンプレックスから、バカにされたくない一心で、精一杯余裕なふりをするけれど、彰人さんはそれが分かっていてわざと追い込むようなことばかり言ったり、したりする。気になる娘をいじめる小学生の男の子みたいな追い込み方じゃない。私が切れるのを今か今かと待ちわびているような楽しそうな表情がちょっと怖い。

もしかすると彰人さんはそうやってサディスティックに愛したい「変わった人」なのかもしれないとも思える。私が嫌がる時ほど楽しそうに見えるし、私が不機嫌に睨みつける時、妙に愛しそうな顔をしてる時がある。私の泣き顔や嫌がる顔が見たいサディスト。

でも何かが違う。どちらかと言うと、泣き顔が見たいのではなくて、その後の怒り狂う私を引き出したくてやっているように思う。絶対飼いならせない猛獣をわざと怒らせて噛み付かせるようような感じだ。歯型がつくくらい噛み付いた時の彰人さんはいつも異様なほど興奮している。それは「痛み」を求めているからではないだろうか。

私を泣かせてでもキレさせたい、そしてその後の報復を待っている。キレる私が好きなんだ。自分のしたことが数倍になって帰ってくるのを待ち望んでいる。きっとそれが全てだ。

そう考えると、彰人さんという男の本質が見えてくる。

基本的に優しく抱かないのは、自分がそうしてほしいからだ。
「一人ぼっちの君へ…」…あの歌も、一人で戦えるほど、強い私が好きというメッセージ。
前に、私が藤崎にキレて蹴り飛ばした時の、彰人さんの食い入るような目。
私が頭に来て噛みつく時の嬉しそうな態度。
白いヒモで拘束されたいから、私を拘束する。
そうやって手段を私に見せつけて教え込もうとしているのかもしれない。

私はたぶん、彰人さんに育てられている。教えられている。何かを植え付けられている。痛みを知らなければ痛みは与えられない。だから私に痛みを与えようとする。何も知らない、いたいけな子猫が鬼のような猛獣に育つのを本気で待ってるんだ。待ちわびてるんだ。……可愛らしい女の子では本当にダメなんだ、彰人さん……なんて厄介な男なんだろう。


でもそんなことに今気付いても、私には何もできない。できるとも思えない。一気に未来は真っ暗になったような気がした。気付くべきことに気付いたのかもしれないけれどショックを隠せない。砕け散るような愛し方をする彰人さんを、満足させるような愛し方が果たして私にできるのだろうか。

茫然と考えごとしてしまった私に彰人さんは優しく、

「いきなり噛みつくなんて、ステキすぎるよ、かずみ。
なんて魅力的なんだろうね。」と囁く。

私は彰人さんに聞いた。

「彰人さんは、痛いのが好き?私にはまだよくわからない。」

彰人さんはけだるそうな流し目を使いつつ、ようやく気付いた私にワクワクしたような表情で微笑む。そんな色気をまた振り撒いて、私を魅了する。

「大丈夫、全部、教えるから。今はまだオレに教えられてればいいよ。」

なんという恐ろしいセリフだろう。彰人さんは私に何を求めているんだろう。


そしてその後、大胆に興奮しきった彰人さんに、少し後悔するほど激しく抱かれた。普段騒がしくなかったり、気だるそうな雰囲気を持つ彰人さんは、こういう時、妙にキチガイじみた雰囲気に変わる。それが私にとっては尚更恐ろしく感じていたのかもしれない。冷静に受け入れれば見えてくる。こんなふうに激しく奪われたいのは彰人さんで、彰人さんはいつもそれを身体で私に教えている。それなら私はもっと真っ白になってもいいんじゃないかと思った。「愛」が痛いなら、その痛みも愛せるようになればいいだけのことかもしれない。痛みが欲しいと言うなら与えられるだけの経験を積めばいい。

私は、やっぱりこの人が、彰人さんが好きだ。
それはもう見た目の何かじゃなくて、不可解な恐ろしい中身の魅力にやられている。彰人さんが望むなら、猛獣にでも何にでも育ってやろうと思った。


そしてまた愛し合った余韻の残るこの空間で「グリーンスリーブス」を弾く。不気味なほど綺麗な音色は、やっぱり哀しくて、愛しくて、恐ろしくて、気持ち悪いから狂いたくて、狂わせたくて、泣きたくなった。そんな音を愛する彰人さんとのこれからを考えるにはもっと腹を据えた覚悟がいるのだろう。でもたぶん、すぐできる。私はそんなに悩めないから。

「…彰人さん?…また…するの?」

アコースティックギターを抱える私を彰人さんが後ろから抱きしめる。

「だってまだ足りないよ?ぜんぜん足りない。」

落ちるところまで落ちたら、私たちは幸せだろうか。そんなことを考えながらまた一つになる。身の毛のよだつほどの行為も慣れればこんなもんだ。私がびっくりしなければいいことだと気付く。どんなところだって舐めたい人は舐めたくて舐めてるんだから、私はもっと堂々とすべきだ。私が自分に置き換えて考えるから気持ち悪くなるだけで、好きな人が喜ぶのなら別にいじゃないかと開き直るしかない。そのうちゾっとしなくもなるんだろう。

「えっ、え、わぁー彰人さんっ、それはヤダ、ちょっと待って!」

それでもまだまだびっくりするのも嫌だと思うのも当分やめられないとは思う。

「普通、普通。大丈夫、愛してるから、ね?」

「っ…無理っ!変態っ!やめてっ、ヤダってばぁあああ!」


平穏で、バカらしい日々を騒がしく送る冬。やっぱり大人の階段はそう簡単に登りきることはできそうもないけれど、私の選んでしまった美しい悪魔のような男は、熱心に私を育てる。そして日が短くなった冬の真っ暗な夕方の道を彰人さんは私の手を引いて家まで送ってくれるのだった。


――――――――――――――――――


最近は自分の部屋にいる時間が減った。ケイちゃんと同じクラスで家が目の前であることを異様に嫌がる彰人さんのために、私の時間はほとんど彰人さんのものになりつつある。あれからケイちゃんとは口をきいていない。口を利けるくらいの距離にならないように心がけているから、目の端にケイちゃんの姿を確認しては大きなお魚を逃してしまった漁師さんの気持ちになったりもする。

今日は中学は午前中で終わりだった。私には関係ない何かの行事だけれど、そこらへんの面倒な代表に選ばれたりする藤崎はまだ学校だ。私は久しぶりに自分の部屋のベットで1人寝転がっていた。すると、ふと、目に入るレコードの詰まった段ボール。ここに引っ越してきて半年も経とうとしているのに、毎日バタバタし通しで片付いていない段ボール箱がまだいくつかあることに気付く。

おもむろに段ボール箱を開け、覗き込みながらこの荷物を詰め込んだ時のことを思い出す。あの時の私には何もなかった。でも今の私には夢中になれることがある。彰人さんが好きだと言ってくれた音を奏でられるギターも、誰かに恋する心も、そしてこれからやりたいことまでも明確だ。たった半年で私の世界は変わった。

そんなふうに思いながら手を伸ばした適当なシングルレコード。
そうだ、B面のことなんて考えたりしていた。

B面…。裏側のようなB面の方が飽きがこないのかもしれないなんて思ったりして。

そして最近私が知ろうとしているのはきっと彰人さんのB面だ。誰にでもB面は存在していて、それを隠しつつ生きるのかもしれない。B面が個性的であればあるほど、派手でカッコイイA面を作り上げなければならないから、彰人さんはそれを知っていて実行している。カッコ良くて目立ってモテる。サディスティックで余裕な振舞い。傍にいられると、ステキだと思わないでいるのが難しいほどの王子様。だけどそれは彰人さんの造り上げたA面。B面を隠すための派手なA面だったんだ。

そして私は根暗人間というA面を作り上げて、自分の本質を隠し通そうとした。それはもしかしたら凶暴な性質の何かなのかもしれない。だから彰人さんは私じゃないといけなかったと考えるとつじつまも合う。

どっちにしろ、彰人さんが普通ではなく「変態」領域にいることだけは確かで、私もそこへ向かおうとしているのも確かだ。彰人さんを縛りつけて何をしろっていうんだろうとダイレクトに考えると頭も痛くなってくるけれど、彰人さんはそんなに短いサイクルで考えているふうでもなかったから、きっと焦る必要はない。なるようになるんだろう。

そして私はそんな複雑な想いを抱えて、アコースティックギターを掻き鳴らす。音とともに全てを浄化するように。

小さな気付きを胸に、それでも何も変わらない日々を過ごしつつ時間は流れる。静かにゆっくりと。



――――――――――――――――――


まさかアホなカップルに自分がなるとは思っていなかったけれど、私と彰人さんは一緒にいる時間は大概どこにいても身体を密着させて過ごす。彰人さんは無駄に私の身体のどの部分でもベタベタと触るのが好きだ。
それは2人きりの時であればもう何でもいいのだけれど、一番困るのは彰人さんのバンドのライブの時だ。極力近づかないように彰人さんの傍から離れようとすると、かなりの爆弾発言で私の顔色をうかがって遊ぶ。

最近は彰人さんの恐ろしい爆弾発言が悩みの種。彰人さんは私にとっていつでも困った人。私も早く負けないくらい困った人になってあげたいものだと思う。


「かずみ、セックスしたことある?」

ここは、ライブハウスの楽屋。彰人さんのこの唐突なセリフに誰もがギョッとせずにはいられない。それを聞かれている私も、その質問を私に投げかけているこの絵を見ている人も、ギョッとして気まずくなるのが普通だ。そんな中で一人ニコニコしながら私を見ている彰人さんを張倒したくなってくる。

変な沈黙の気を使って吉貴くんが、

「おい、彰人何言ってんだよ、女の子にそりゃないよなぁ、かずみ。」と、その場をどうにかしようとしてくれた。私と彰人さんが怪しいのはそれはもう誰もが思う事で、普通に肯定すればそれで事は終わるしきっと誰も驚かない。でもこういうとんでもないことをサラリと言うから言えなくなるし、言いたくもなくなる。

だから私は黙ったまま彰人さんを睨みつける。そしてここでどうして欲しいのか考える。私が何も言わなければ彰人さんは攻撃をやめないだろう。私の動揺した表情を観察しながら心底楽しむんだろう。その楽しいと思う気持ちが少しでもわかってしまうから負けたくない。

だけどこんなに人のいるところで、吉貴くんや他のバンドの人のいるところで、セックスはしたことがあるし、相手はあんただし、昨日も一昨日もあんたと絡み合って愛を確かめ合いましたが何か?、とはさすがに言えない。

普通の中学生はそんなことしないし、普通は中学生にそんなことしない。

だから私は嘘をついた。

「したことない。そういうのはオトナになってから。」
と、出来るだけ普通な顔を作って言った。

「かずみは怖い女だね。
嘘つくときにそんな普通な顔できるなんてなぁ。侮れなくてカッコイイよ。」

彰人さんの攻撃が厳しい。でも諦めない。これしきで負けてたまるか。持っていけるまだ。

「嘘じゃないよ?彰人さん女の子にそんなこと言うなんてヒドイよね。」」

「だよなぁ、女の子にそんなこと聞いたら嫌われるって、彰人。」

吉貴くんが割って入って助けてくれることに感謝だ。
今のうちに彰人さんの傍から離れよう。

「ちょっと風に当たってくる。ここ煙いし彰人さんがヤラシー話しするんだもん。」

私はそう言って誰にも怪しまれずに楽屋から出ることに成功した。

彰人さんの言動が最近ヤバイ。もうバラすつもりなんだと思う。でももっと普通に言ってほしいし、性的なアレコレを想像させるような言動だけはやめてほしいのに、それで楽しむクセがあるから困りものだ。どうにかならないだろうかと、往生際の悪いことを考えてしまう。

楽屋の裏口がら外へ出て、冷たい風を頬に感じながら、彰人さんと初めてここで手をつないだ時のことなんかを思い出してる自分が可愛い乙女だと思う。あの時のトキメキを返せとはもう言わないけど、あんなにドキドキしたのは初めてだったから紛れもなく初めての恋と言えるのに、相手がこんな変態だなんて。それでも好きだなんて。笑ってしまう。

黄昏時独特の切ない空気の中、愛しい人との思い出を胸に、冷たくなった頬に手を当てて寒さを感じたから、楽屋に戻ることにした。楽屋の隅で大人しく藤崎と一緒にいればそっとしておいてくれるかもしれない。

楽屋の扉を開けると、彰人さんたちが下品な雑談をしているのがすぐわかった。男という生物特有のあのバカみたいなキチガイじみた笑い。エロ話するのもいいけどここに女子がいることに、少しは気を使えとも思う。とは言ってもこんなところに来る私が悪いこともわかっている。まぁ別に私に関係ない話なら何を言っててもいいけど、今さら。

「どれくらい好きかっていうと…
彼女のウンコならマジ食えるね、あははは、それくらいハマってんの。」

彰人さんがまたバカなことを…。最悪だ。

やっぱりもう殴っていいかな。高いトコロから突き落としていいかな。こういう発言後に例えばその彼女が誰であるかがみんなにはっきりわかったとしたら彼女は何と思われるか。

ウンコを食ってもらえるほど愛されてるなんと幸せな彼女なのだろう…とは普通の人間は思わない。ウンコを連想されて変態の仲間だと思われるのが落ち。愛とウンコを測りにかけるその黒くて純粋な心を私は本当に愛せるのか?…と冷静に思う。わなわなと怒りが湧いてくる現象に最近は恵まれすぎていて少しは我慢強くなったと思う。

ギャハハハと下品で底辺な笑いが飛び交うこの楽屋。最初に見た時に壁の落書きが妙にいやらしかったのもなんとく頷ける。所詮キレイじゃない世界だ。ロックの根底はキレイじゃイイ音を掻き鳴らせない。

彰人さんたちの会話が聞こえないふりをして私が冷静に耐え忍んでいると、彰人さんはそんな私の様子を横眼でチラリと確認してはニヤニヤしている。それがまたムカつく。お寺に修行に行くとか、滝に打たれたりしたらもっと忍耐力はつくだろうか。

「彼女のアソコの味っていうのがまた堪んなくて、もうオレ絶対中毒。」

でももうダメかもしれない。ハラワタの具合が煮えたぎっていて、私はもう今すぐにでも彰人さんの両ほほを往復で平手打ちしたあと、腹に一発おみまいしてから長めの柔らかいふわふわの髪を思い切り掴んで固定したら、ありえないくらいのディープなキスで口を塞いてしまいそうだ。恐ろしい。

これをやったらもう確実に変態決定。吉貴くんの幼なじみの大人しい女の子ではなくなるんだろう。

私の葛藤など知らない彰人さんは、容赦なく私のヤバイハートに火をつけ、マキをボンボコボンボコ投げ入れる。

「こういうライブ前ってなぁんか落ち着かないよな。興奮の持って行きどころが目の前にいると、普通にしてても勃起すんだよ、ホラ。困るなぁ。」

ウヒャハハハとバカらしく盛り上がる「男」という生物の汚らしさを見せつけられるようでとても不快だ。でもその場を盛り上げているのは、股間のカタマリを突き出している自分の愛しい恋人だからイライラしないワケがない。どこまで下品で最低なんだ、もうホントに嫌いになろうかとこんな瞬間は思う。というよりこれで嫌いにならない方がおかしい。

そして絶妙なキーワードを徐々に使い始めた。「目の前にいる興奮の持って行きどころ」に誰かが突っ込んだらもうお終いだ。バラすつもりだ。いつかはバレるんだろうし、バレたらどうせ私も変態枠だ。もうどうでもいいや。

「ああ、舐めろとは言わない、せめて舐めさせてくれないかなぁ、あははははっ。」

けらけらとおどけるふりをして卑猥なことばかり言う彰人さん。そんな彰人さんを囲むように数人の仲間達が笑っている。そして吉貴くんが、

「でも実際彼女にはそんなこと言えねーよな、怖くて。」と言った。

そう、それが普通の感覚だと私も思うけど、彰人さんはこうやって本人を目の前にしてこういうことを言う変態なんだ。みんなわかってないなぁ。これからわかるだろうけど。

「かずみぃ。」

来た。彰人さんの爆弾の合図。私はうつむきながら、どんなことを言われても耐えようと覚悟を決めた。

「…何?」

不機嫌そうにそう答えた私をニヤリと見つめて、彰人さんは嬉しそうに言った。

「舐めさせて?いつものように。」

この言葉以降の記憶はあるけれど、私はもう自分で自分を制御しきれなかった。先程やってしまいそうで恐ろしいと思ったことをそのまま全て実行していた。そして真っ白にブチ切れた私は気持ちいいくらいに彰人さんを踏みつけて、

「腐って死ね、ヘンタイ。」

と、冷たく言い放ち、そして踏みつけている足をゆっくりと床に下ろし、誰も笑えない静かな空間と化したその場からスタスタ歩いて楽屋を出た。その時の満足そうな彰人さんの表情に更に腹を立てながら。

これでバレた。そして私たちは公認だ。変態としても。

「園田、ぉい、スゴイことやったな、おまえ。いいの?」

楽屋の端でギターをいじくりつつ黙って聞いていた藤崎が私の後を追いかけてきた。

「もういいんじゃない?彰人さんなんて好きにさせとくしかないじゃん、誰の言う事も聞くわけないし。あの人そういう生物だし。」

「兄貴の彼女、園田だってみんなにバレたよ?」

「うん、もう面倒だからいい。彰人さんがロリコンの変態のウンコ野郎だってみんな知ってるんだろうし。あ、あと精神サドの肉体マゾだよ、もう最低。あはは、そんでその彼女が私か。最悪。」

「好き…なんだよなぁ?」

「…だから、ねぇ、それがバカらしい。ケイちゃんを好きでいたかったよ、私だって。所詮私もウンコ野郎ってコトじゃないの?」

だけどすっきりして気分は悪くなかった。ステージが終わった直後、汗にまみれて汚い裏階段の脇あたりで愛し合ってやろうと思っている。もうこうなったら何でも来いだ。そして私もギターを弾きまくろう。藤崎に負けてる場合じゃない。いつかこの音が誰かの耳に届く時、私はすっかり年季の入った変態に育っているのだろうと思ったら、おかしくておかしくて仕方がなかった。

「兄貴はあれでもおまえのことすごく好きだよ。」

「知ってるよ。大丈夫だよ。私もすごく好きだよ。」

こうやって兄のフォローを入れる藤崎は、根が優しい。

「兄貴と園田はさ、やっぱ似てる空気もってるよ。」

「やめてよ、私はあんなに変じゃない。」

「いいなぁ、兄貴は。オレにもいつか変態な彼氏とかできるかな。」

「…にも、変態?だから私変態じゃないって。」

「変態だろ。おまえの行動充分ヤバイよ。」

「彼氏ね…しかも変態の。…できるよ、きっと。正直に生きてれば。」

「だといいなぁ。でも園田と兄貴みたいにはオレはできないよ。」

「まぁ、まだ私たちは子供だからさ、焦らなくていいんじゃない?」

「うん、それもそうだな。」

藤崎と2人で他愛もない会話をしつつ正面ロビーへと続く通路を歩いていると、前から女の人が歩いてきた。紗由美さんだ。彰人さんの元彼女。紗由美さんを目の前にして何も思わないほど私は大人でもない。というより大人なら本当に何にも思わないのか大人に聞きたい。

そして紗由美さんも藤崎と歩いている私の存在に気付く。

「あ…、」と小さく驚いたような声をあげ、大きく潤んだ瞳で私を見た。

紗由美さんはただ、私を見ただけと言われればその通りなのに、私はなぜかとてつもなく凶暴な気分になってしまった。私よりも遥かに可愛らしい顔立ちに魅力的なスタイル。普通に考えたらこの人をやめて私とつき合う彰人さんが完全におかしいと思える。どこから湧き出るイライラか知らないけれど、とにかく私は紗由美さんとすれ違うにしたって黙っていられなかった。

「こんにちは、誰か探してます?」

と私が聞くと、紗由美さんは怯えたように一瞬たじろいて、それでも図々しく、

「あっ、あの、彰くんは…、」

と私に言った。

前にも思ったけれど、この人は頭が悪いと思う。そのおどおどした雰囲気もイライラするのに、私に向かって「彰くんは、」とか言えるんだからスゴイ。紗由美さんは私が彰人さんの彼女だと知っているはずなのに。彰人さんもこんな頭の悪い女となぜつき合う…処理用という意味がよく理解できそうで嫌な気分だ。

今楽屋に戻ってムカつく彰人さんにべったりとくっついてやるのも嫌だし、紗由美さんを彰人さんの元へ笑顔で送り出すのも嫌だ。溜息をつきながらふと隣を見ると、兄の元彼女と現在の彼女のご対面を見守る藤崎が絶妙な表情だったので急におかしくなった。

「あははは、藤崎、変な顔。」

「お、おまえっ、何言ってんだよ、バカ。」

正直に生きてれば、と、私は藤崎に言ったばかりなのを思い出した。

「紗由美…さん?彰人さんはねぇ、楽屋でエロ話してるけど、もう処理用の穴はいらないの。だからそんなアホ面で可愛らしく誘惑しにいっても無駄だから。あ、あと知ってると思うけど彰人さんと今つき合ってるのは私だから。人の彼氏に色目使うのやめてね?適当な穴で処理すんなっては言ってあるけどね。」

びっくりしている紗由美さんの表情よりも、隣で慌てふためく藤崎の挙動の方が面白い。紗由美さんがバカだと思ったからわかりやすく説明してあげただけだけど、どう考えても私がとんでもなく嫌なヤツだということは私にだってわかる。紗由美さんからしてみれば彰人さんを奪ったのは私なんだろうから。それでも言いたいことははっきり伝えておいた方がいいんだ。

今にも泣き出しそうな雰囲気の紗由美さんは、そのまま何も言わずに来た方向へと走り去って行った。私はそんな紗由美さんの後姿を見ながら、やっぱりそれなりには不安になる。ヤキモチっていうのもかなり厄介な感情で、できれば味わいたくなんてないのに、彰人さんといる限りそれは無理なのかもしれないと思った。



それから数ヶ月後に、この時の私の紗由美さんへの言動がもとで運命には新たな歯車が加わることになる。この時はそんなことを思いもせずに、ただ紗由美さんを彰人さんに近づけまいとやっぱり彰人さんのもとへ足を運んだ。そして彰人さんの腕の中でそれなりの幸せを感じつつ、彰人さんが私を手放さないように、私も彰人さんを手放したくないと、心からそう思っていた。
スポンサーサイト

| 【恋愛】B面トライアングル | 18:23 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT

今まで、この小説は中学生かずみの暴走ストーリーだと思っていましたが、しかし、読後にふと、この小説は彰人という男の洗脳物語なのではないかと想像を巡らせてしまいました。
自分に素直になって行くかずみが可愛いですね。
しかし、まだまだ意地っ張りな所もあり、そこがまたかわいい。

いつも男は勝手です。
勝手な事を勝手にほざいて女を迷路に誘い込みます。
その迷路から必死に抜け出そうとする未熟な中学生。
っとなれば、この紗由美さんという頭の悪いアホヅラ女は、迷路の道先案内人ですね。
益々楽しくなって来ました!

| 愚人 | 2011/10/06 20:07 | URI |

>愚人様

◆コメントありがとうございます◆
洗脳物語…、小さな洗脳はそこら辺にたくさんあって、誰しも気付かずに誰かに影響を受けているのだと思います。自我を覚醒させるにあたっては、その材料により道は変わります。出会った材料が何だったとしても常に自分のカンを信じてかずみは付き進んでいきます。
彰人は、理想的な関係を築ける相手がかずみだと直感的に思ったけれど、かずみはまだ何も知らない子供ですからもう少し見守るつもりでいました。しかし、慶太との事を知り、行動を起こします。「洗脳物語」、正にそんなカンジなのかもしれません。
はたして理想通りに育つのか…。
勝手なことばかり言う男、迷路に迷い込む女。青春には迷路がつきものです。
紗由美への暴言がきっかけで一体どんなことが起こるのか。
でもかずみは、何が起きてもそんなに乙女ちっくには悩みませんから、ある程度コメディですw

| 玉蟲 | 2011/10/07 10:31 | URI |















非公開コメント:

<< PREV | PAGE-SELECT | NEXT >>

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。