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B面トライアングル<22>

B面トライアングル<22>【最高ライフの幕開け】

つないだ手をブンブンと振りながら、ほとんどヤケになって歩く私に彰人さんは「ケーキ落とさないようにね?」と、こんな時だけ優しいお兄さんみたいなことを言う。こういう場面だけを見れば幸せものな私。年上の優しくてカッコイイ彼氏と手をつないで歩く女の子。甘い甘いケーキを持って。

きっと大事にされていて、可愛がられているんだろう。と、誰もが思う。ステキな人に恋する物語にはありがちな場面。でもこういう場面が実際存在しても、裏側がキレイだとは限らないことをすっかりと教えられた。夢見る乙女から夢見ない乙女へと変わることもオトナになるために通る道なのかもしれない。

そして私はケーキが早く食べたかったから、行く時よりも速足でサクサクと歩いた。乙女の現実も本当はこんなもんだ。

彰人さんの部屋に戻ると、私は藤崎に借りていた服を脱ぎ、自分の制服に着替えた。すっかり汚れた身体と精神を包むのにふさわしくない紺色でお堅い制服さえもバカらしく思える。いくらこんなものに身を包んだところでさっさと汚れるヤツは汚れるんだと思ったら変な気分だった。着替え終わって廊下へ出ると自分の部屋から出てきた藤崎に出会い、ふと、目が合う。

「ダッサ、何、兄貴に泣かされてんの?」

泣いたとき特有の腫れた私の目を見て藤崎はそう言った。

どんな酷いことになっていたかおまえにわかるかバカヤローと思ったら無言で藤崎の足を蹴飛ばしていた。それによく考えたら今日おまえが彰人さんに差し出したんじゃないか!と無性に腹が立った。

「痛って、蹴るなよ、バカ女!」

「もう、マトモに生きるの諦めるほどのことされたんだっ!
おまえのせいだっ!」

「えっ、何それ?何されたの???」

それは説明するのも恥ずかしいから言える気がしない。彰人さんのおかしさをけっこう藤崎に愚痴ってきたけれど、さすがに今日の出来事は言いたくない。行動に関して、いくら意思に反していたとはいえ、私がしてしまったことがあるからだ。

「……いや、それはね、いろいろあるの。、
私はもうね、犯罪者ってカンジ。とにかく最悪なの。」

「犯罪者…?悪いことしてきたっつーコト?
でも、おまえどんなに文句言ったって結局好きなんだろ?あの変態が。
で、変態兄貴はどこ行ったの?」

たしかに今日は何度も嫌いになろうと思ったけれど実際どうなんだろう。腹は立つけれど彰人さんの手をいとも簡単に取ってしまう事実が哀しい。

「彰人さん下で紅茶入れてる。ケーキ買ってもらったんだ。
藤崎の分もあるよ、一緒に食べよ。チョコは私のだからね。」

「…明るい犯罪者だな…おい。マトモに生きるの諦めたって、おまえ最初からあんまマトモじゃねーし。あと、学校でコエーこと言うのやめろよな。」

「あはは、アレ、私はちょっと面白かった。だってどうせ藤崎のせいでヤリマンとか言われてるから今更何言っても関係ないもん。」

「おまえ…悪趣味。」

「悪趣味は彰人さんだよっ、最低の最悪で憎たらし過ぎる。血が繋がってると思うと藤崎までなんか憎いわ。」

仲の良い友達に会った時のように、藤崎と話をしていると安心感がある。私と藤崎は彰人さんの部屋でケーキの箱を開けながら雑談をしていた。藤崎もチョコレートが好きだと言った。「ダメ、チョコケーキは私の!」と、ケーキの取り合いをしている時に、いい香りの紅茶のトレーを持った彰人さんが戻ってきた。

「陽一、チョコはかずみのにしてやってよ、泣かせちゃったお詫びと頑張ったご褒美だから。」

彰人さんはニヤニヤと私の顔を見てそう言った。すっごくヤな言い方だ。何を頑張ったか…考えたくもない。その話をされたくない。その頑張った内容について語られたらもう生きていけない。恥ずかしくて死ねる。ムカつくけれど何事もなかったかのように話を逸らすしかない。彰人さんの言葉を無視して普通を装った。

「藤崎はこれ、いちご乗ってるヤツね、ホラ、いちごのも美味しそうだよ、やっぱりケーキといったらいちごでしょ、いちごといったらケーキだしね!」

何を言っているのか自分でもさっぱりわからなかった。「普通」がうまく出来ないくらい本当は動揺が隠せない未熟者の私。そんな私を見て彰人さんがケラケラと笑い出す。藤崎はそんなバカップルには興味もなさそうにいちごのケーキに手を伸ばす。心中穏やかでない私は、後で絶対彰人さんに今後一切今日の出来事を口にするなと言おうと思った。

「かずみと陽一はさぁ、仲良しなのはいいけど間違い起こしたら2人とも絶対許さないよ?」

彰人さんは笑いながらそう言った。でも目が笑っていない。

「誓ってない、絶対ない、ありえない。オレ園田だけはヤダ。」

藤崎は「園田だけはヤダ」とか言ってるけど、女の子全般ダメなくせに私限定で言う。でも仕方ない。彰人さんはその事実を知らないんだから。彰人さんは知らないから、時間を長く過ごす男女に見えてそれなりに心配なのかもしれない。でも「心配しなくていいよ」とはぜんぜん言ってあげたくならない。彰人さんなんかもっともっと心配して苦しめばいいのにと思った。嫌なめに合わされて憎たらしいから、だからつい衝動的に言ってしまった。

「そんなのわかんない。「間違い」なんて間違えるから起きるんでしょ?間違ったらゴメンナサイって言うから、ちゃんと許しなよね。」

彰人さんは異様な笑顔でそのまま私を見ていて、藤崎はバカなこと言うな、と目で訴える。私はツンと横を向いてチョコレートケーキを突き、大きな口でパクパクと食べていた。

「いや、でも間違いとかぜってーないから、なぁっ。」

と、彰人さんに気を使ってか、藤崎はフレンドリーに同意を求める。そんな藤崎を無視してケーキを食べ続けている私に、彰人さんはニコニコしながら、

「かずみ、チョコケーキ美味しい?」と聞いた。

私はチョコレートが大好きだからチョコケーキは悪者にできない。

「うん、美味しいよ。」と答えた。

なんの変哲もない、紅茶の香りに包まれた楽しいおやつの時間。学校でない場所で藤崎といるとギターを弾きたくなるから、食べたら少し一緒に練習しようかと思った。私はまだ藤崎には追いつけないけれど少しの上達でも見せつけたくて仕方ない。近づいていつか追い抜いてやるという考えは変わらないから、ワクワクしながら練習できるのが楽しくて藤崎と一緒にいる時間も好きになりつつあった。

でも彰人さんは私がケーキを食べ終わると藤崎はまだ食べ終わっていないのに、

「陽ちゃん、かずみとゆっくり話があるから、2人っきりにして?」

と、怖いセリフを言う。「陽ちゃん」と呼ばれた藤崎は、彰人さんの怪しげな空気を読み取って逃げるように食べ掛けのケーキを持って部屋から出て行った。私の方をチラと見た時の目は「バカだな、怒らすなんて」と言っているように見えた。

彰人さんは藤崎が部屋を出て行く時、

「あと陽ちゃんさぁ、かずみと仲良しなら慶太と早く別れさせてよ。兄想いの可愛い弟やってくれたら、おまえの欲しがってたオレのギターくれてやるよ?」

と、言って送りだした。



―――――――――――――――――――――



「さて、かずみ、オレ大変なことに気付いたよ。」

藤崎が出て行った後、急に真剣な顔をして彰人さんが言った。

「え、何?」

大変なこととは一体何だろう、私にも関わることだろうかと、私も真顔で彰人さんを見る。彰人さんはその真剣な表情を少しも崩さすに言う。

「…今日、バックだったからちゃんとかずみの顔見てヤッてない。」

意味不明、何言ってんだ、この人は、と思ってキョトンとしてしまう。

「顔見ながら入れてないなんて、今日のオナニーに関わるから顔見てヤっとかないと。」

彰人さんは突然私をベットにポイと投げるように押しやった後、いとも簡単に私を抑え込むと制服も脱がさずにスカートの中の下着に手をかけた。一瞬何をしようとしているのかわからなかった。

「え?え?ええ??何?」

「すぐ入れてすぐ終わるからちょっと我慢して?」

信じられない、信じられない、信じられない。さっき今日はもうしないって言ったのに。

「ヤダ!今日はもうしないって言った。」

「顔見たくない女はバックでもいいけど、かずみはダメ。入れてる時の顔見ておかないと、今日のオナニーが…。」

「…今日のオナニーって何?」

怪訝そうな顔でそう聞いた私の言葉に彰人さんはまず、爆笑した。ヒーヒー言いながら心ゆくまで笑うと、それからその後、ものすごく愉快そうに教えてくれた。

「あー、面白い、かずみ面白すぎる。オナニーはね、自分でヤっちゃうこと。さっきのかずみみたいに自分で気持ちよくなってイっちゃうことだよ。何にも知らないでやらされるなんてな、すごいイイよっ、かずみ。」

彰人さんはそう言ってからもケラケラと笑い続けていた。私はまた恥ずかしい感情を引き出されて顔が熱くなる。そして同時にもう絶対止められないくらいの腹立たしさに襲われて、笑いながらもスカートの中の下着から手を離さない彰人さんを大胆に蹴り飛ばしていた。許せな過ぎる。私にだってプライドがあるんだ、そして恥ずかしくて傷つくんだ。彰人さんのこういう所も大嫌い。性格がいいとは言えないと思う。

それにしても「オナニー」とは初めて聞いた言葉だ。性器の名称と同じくらい、いやそれ以上に絶対に言ってはいけない辱かしい言葉だと深く心に刻みつけた。この場合、堂々と言ってのける彰人さんが絶対おかしいのであってこんなふうにサラリと表現していい言葉でないことは間違いないはずだ。

「痛いなぁ、そんな怒るなよ、カワイーなぁ、もう。
また火がついたらかずみが困るだろ?」

何を言ってもダメ、噛みついてもダメ、蹴り飛ばしてもダメかよ、一体何をすればいいんだ。

「変態!もう彰人さんとは絶対しない!」

「ふぅん…じゃぁ誰とするのかなぁ…。」

一瞬で空気が静かになった。彰人さんはやっぱり怒っている。ヤバイ。本当はさっきのでかなりムカついたんだ。彰人さんが異様なのはわかってるのに、藤崎がいるからと安心してしまった私の完全な失言だと後悔した。こんなベットの上で腕を掴まれたらもう無事では済まない。

静かな空気の中、彰人さんは黙ったままの私を見つめ、静かに口を開く。

「誰とするんだろうねぇ、かずみは。慶太?陽一?でも、
…慶太となんかとしたくならないようにしてやるし、陽一と間違いも起こしたいとも思わないようにしてやるから、安心して?」

「安心」の使い方が絶対違う、怖すぎる。さっきはゴメンナサイ、藤崎とは絶対ないです、と謝った方がいいだろうか。言い方が優しくても行動が伴わない彰人さんの恐ろしさを知っているからイヤな予感がする。

「だっ誰とも…しないよっ、間違いも起きない。藤崎となんて本当はあるわけないよ。ほ、ほら、藤崎もそう言ってたし。」

「ダメ、もう遅い。慶太のことでも頭おかしくなりそうなのに、陽一と間違いなんて考えただけでも気が狂いそうでびっくりだ。かずみがすぐ否定しないから、憎たらしくて立っちゃったよ、コレ。だから顔見てヤラして?」

この瞬間は、彰人さんに何かを思うというよりは、頭のぜんぜん関係ないところで「嘘でしょ、神様、憎たらしくて立つって何ですか…」と、信じられない事態が起きる度に信じてもいない神様を勝手に作り上げ語りかけるという、私の変なクセが発動していた。

それに彰人さんは何回ヤれば気が済むんだ、普通は一回ヤったら溜まっているものがなくなったんだから、もう充分ではないのか?それともそんなに短い時間でもりもりと溜まっていくものなのだろうか。溜まるもの、あの白い液体は底をつくことはないのだろうか。溜まるからイきたいのか、それともイくために気合いで溜めているのかわからない。とにかくもう今日はしたくない。きっと私はそんなに濡れない。オトナじゃないから汁不足、だから絶対痛いと思う。

それなのに彰人さんはじりじりと私に迫ってくる。構えた表情で彰人さんを見るけれど、彰人さんはそんな私の表情一つで自分のやりたいことを曲げる人ではない。私が不機嫌になるなと言う方がおかしい。私は今までにないくらい蔑みの表情を交えて、不機嫌な顔を作った。

「かずみの不機嫌な顔は最高にそそるけど、
そんなにイヤなら目でも閉じてたら?すぐ終わるよ。」

彰人さんの言葉には時々胸をえぐられるような感じがする。慣れてきたとは思うけど、慣れたのはその言葉について何も思わないことじゃなくて、何か思っても取り乱さないことにだと思う。あとはいちいち腹を立てないようにすることだけど、それはなかなかできない。腹立たしいものは腹立たしい。

「目を閉じてもヤなもんはヤダ。今日はもうしないって言った。」

「早く何回ヤっても、ヤじゃなくなる日が来るといいね。
それまでは目を閉じて慶太のことでも考えてれば?」

なんという嫌なことを言うんだ、びっくりする。これでは嫌われない方がおかしいと思うのに、彰人さんは平気で爆弾な発言をする。これだから私の心に平和が生まれなくていつもいつも頭の中をかき乱されるんじゃないか。私を好きなのはわかったけれど、彰人さんの溢れる愛情は歪すぎて触ると痛い。そして怖い。でも怖くてもそこまで酷いことをこうも堂々と言われたら、立ち向かうしかなくなる。だってそれは私の性格だから仕方ない。

「じゃ、そうする。でもケイちゃんのこと考えたら彰人さんの大好きな不機嫌な顔はできないかもね。」

そんなことを言ってしまったら恐ろしい目に合うのに、言ってしまう私のバカな口。そして彰人さんは逃げ場のない私なのにワザと荒々しく捕まえて、私のバカな口を優しくなく塞ぐ。

彰人さんだって面白くないのが、このぶつかるような激しいキスで伝わってくる。でも何かを壊したいみたいな暴力的な愛情が怖いと思うのは私だけで、彰人さん自身はまるで自分の気持ちを弄んで楽しんでいるように思える。不可解すぎてついていけないはずなのに、いつも吸い込まれるように受け入れてしまう。こうやって。

彰人さんはゆっくりと唇を離しながら、私の後ろ頭に手を回し髪の毛をギュッと引っ張る。私は髪の毛を強く引っ張られ強引に上を向かせられる。そのまま睨みつけると私の突き出たアゴをベロリと舐めて、

「生意気な口。」と囁いた。

開き直って「怖いよ、バカ!」と言ってやりたいけれど、こういう時の彰人さんの持つ雰囲気は尋常ではないからそう簡単には言えない。このまま好きにさせておくしかない。この状況をどうにかする術を私は知らない。

何の術も持たない未熟な私は、ゆっくりと目を閉じた。

すると彰人さんは制服も脱がせないまま、私の下着だけを取り去った。目は開けないけれど、音でゴムを付けているのがわかった。そして私の上に覆いかぶさると一瞬強く抱きしめてから、すぐにアレを奥まで入れた。入りづらいからゆっくりと、でも無理矢理。

「痛ぁっ、うぅっ痛い、痛いよ…彰人さん、だって、まだ…、」

「だってまだ何?濡れてない?たくさん濡れるようにもう一回イきたい?」

その言い方はケンカを売っているのかと聞きたくなるくらい腹立たしい。本気でぜんぜんイキたくないし!

「イきたくないっ、もう勝手にすれば。痛いけど我慢できるもん。さっさとイケ!」

「ふぅん、そう、じゃ勝手にするよ。」

彰人さんは憎たらしくそう言ってから、いきなり激しく腰を振った。痛いけれど我慢した。頭に来るから我慢できる。そして私は激しい突き上げに声を押し殺してしばらく我慢していた。あの時みたいだと、初めて彰人さんにヤラれた時のことを思い出させられた。

でも私の身体はあの時よりも確実にバカだ。勝手に滑りを良くする汁なんか出しやがって、痛みがなければ気持ちいいと感じてしまう。面白くなくたって悔しくたっておかしな快感が押し寄せてくる。この葛藤のような気持ちはもしかしたらオトナな悩みと言えるのかもしれない。そして動きが激しすぎてだんだんと呼吸がし辛くなる。脳に酸素もいかないから考え事も困難だ。私は目を閉じて早く終わって欲しいと告げる。

「はあっ、はっ、はぁ、あ、彰人…さん、は…やくイって。」

「ヤダ…まだ…イカねーよ。目、開けて。見て、ちゃんと。」

自分が目を閉じろと言ったくせに、今度は目を閉じている私に目を開けろと言う。私が目を開けて彰人さんを睨みつけると、

「今、かずみの中にいるのは誰だか言えよ。」

と、真面目な顔で聞く。バカみたいなことを聞くな、と思うけど、バカみたいに綺麗な顔でそんなこと言うのは犯罪だ。私はそんなわかりきったことに答えたくはなかったけれど、答えないといけない雰囲気に戸惑う。そしていざ答えようと思うとなぜか言葉に詰まる。ただ彰人さんの名前を呼ぶだけのことなのに、彰人さんの顔を見て言えない。こんな時に彰人さんを見つめながら、今私の中にいるのは彰人さんだと声に出して言うだけで、そんなことだけで彰人さんに全てを奪われそうで言えなくなった。ただ黙って見つめる私にもう一度彰人さんが聞く。

「おまえの…中にいるのは…誰だかちゃんと言えよ。」

彰人さんが怖いからとかじゃない。言いたくないと思うのに、私はまた魔法にかけられたように口を開いてしまう。

「あ…あき…と…さん…。」

「じゃぁ…さっきかずみは…誰にイカされた?」

「あっ、はぁっ、あ…彰人さん…。」

深く突き上げられて呼吸を乱されるのに、それでも彰人さんは質問をやめない。

「…後ろからヤられて…誰にイかされちゃったの?」

「ぅはぁっ、あぅっ…あっあ、あきっ…とさん…っ、も、ヤメて。」

頭がおかしくなりそうだし、そんなことを聞かれるのは腹立たしいのに、こうやって口に出して答えさせられるのがまるで暗示のような効果を生み出しているかのように、この一瞬は確実に彰人さんに夢中になっていく。怖い魔法だと思った。

「かずみを…一番愛してるのは誰?」

「あっ、ああっ、彰人さん…。」

「かずみが…一番愛してるのは?」

「…あっ…あ…き…と…さん…。」

正面から抱き合って一つになることでこんなにも心は囚われる。たしかに彰人さんの言う通り、顔が見えるのと見えないのでは心への影響が違うのかもしれない。覆いかぶさる彰人さんの背中に腕を回し、しがみついてしまう。何度も彰人さんの名前を呼ぶ。苦しくて切ない。彰人さんを嫌いになれないどころか好きで辛い。こんなに変な人でも、彰人さんを求める。そして壊れそうなくらい抱き合って、私たちは何を確かめ合うんだろう。

彰人さんは果てた後も繋がったままずっと私を抱きしめていた。そして、初めて、彰人さんの不安を知る。

「…お願い、ホントに慶太とヤらないで。オレ平気じゃないから。お願い…」

耳元でそう囁いた時の声が、すごく静かで泣きそうな雰囲気の声だった。

いつも恐ろしいか、ふざけてるかみたいな態度でしか愛情を示さなかった彰人さんの消え入りそうな真面目な声に胸のあたりがざわめいた。彰人さんの不安が伝わって来て切なくなった。どんなことが起きても平気で余裕で頭がおかしくてどこか完全にイっちゃってると思っていた彰人さんの本心はまた別のところに存在する奥深いものなのかもしれない。私が子供すぎて見えなかったのか、見ようとしていなかったのか。彰人さんがオトナだと思っているから見えなかった部分が確実にあるような気がした。

私は胸がいっぱいで返事が出来なかった。けれどしがみついている腕に精一杯の力を入れて彰人さんを強く抱きしめた。でもふと頭をよぎるのは、今日やられた数々の嫌すぎる性行為。あれさえなければもっと好きなのに、それがあるから無心で飛び込む気にはなれない。それでも抱きしめる腕を離さない私の矛盾。

でも、なんとなく、戦う心の準備が今、できたような気がした。
戦う相手は彰人さんじゃなく、自分自身だ。


――――――――――――――



病気に進行状況があるように、恋愛にも進行状況がある。ケイちゃんよりも彰人さんとより多く肉体関係を持ってしまったことによって、こちらの方が進行状況は悪化してしまったと言える。ケイちゃんと一緒に居たいと思う気持ちは正しい恋心だと思う。でもそこで起こる肉体関係はまだきっと幼い。初歩と言える。身体から心への深く刻みつけられるような愛しさには変換されていない。所詮人間もドーブツで、心だけで感情を決めるわけじゃないことがなんとなくわかってきた。人間は知的だと言うけれど本当はそうでもない。そんなことも知らない私の考えはとにかく浅はかで、出す答えは正しいとが限らない。でもそれがわかっていても正しくなくても答えは出る。

はっきり言って不安とイラ立ちが恋愛感情よりも上回る瞬間が多いのは確かだけど、私はやっぱり彰人さんを嫌いになれない。あれだけのことをされても嫌いにならないなんて好きだからとしか言いようがない。好きなんだ。彰人さんが好き。それはずっと知っていることなのにケイちゃんに別れを告げられるほど彰人さんだけを好きなわけじゃなかった。

でも進行してしまったこの病気のような愛情を切り捨てられる薬がないのなら、苦しくても切なくても伝えなくてはいけない。失うものが大きくても痛くても、自分で伝えるしかないんだ。そして私自身のフラフラしたケイちゃんへの浅い慕情が罪であると自覚するべきなんだ。

私はケイちゃんと別れることを決めた。ケイちゃんよりも彰人さんが好きなんだと伝えなくてはいけない。思えば初めから私は彰人さんに魅かれてしまうことがやめられなくて苦しかった。現実に触れあう人ではないと勝手に決め付けていたことが原因で、悔しさから勝手に諦めようと思っていた。彰人さんに恋する私がみじめに思えて絶対にそうならないように自分に何度も言い聞かせた。彰人さんといるとわけのわからないコンプレックスを感じて不快だから夢中にならないように逃げた。でもそれではダメなんだ。何にも解決しない。自分は向う見ずな性格だと信じて疑ってなかったけれど意外とそうでもないのかもしれない。自分を守ることを考えて足を踏み出さないのはカッコ悪いのに、自分がそんな状態だと気付いて情けなくなった。

これではダメだ。


翌日の朝、ケイちゃんと並んで学校へ行く途中、私は突然きっぱりと言った。

「ケイちゃん、ごめん。私、やっぱりどうしても彰人さんが好き。だから別れて。」

覚悟が決まっているから、時も場所も選ばずに言える。決まってしまった自分の意思がはっきりわかれば私はこんなにも言い難いことをはっきりと言える人間だ。

こんな時間を乗り越えるのも試練。強くなることを望めばどこまでだって強くなれることを私は知っている。バクバクと活発な動きをする心臓に負けない根性を身につけなければきっと彰人さんとも付き合えない。

「もう、そんな早く答えが出ちゃうんだ…。やっぱり彰人さんを選ぶんだ…」

「…うん。」

私の覚悟を感じ取ってか、ケイちゃんは静かに受け入れるような態度だった。胸が痛む。すごく苦しい。

「なんだかんだ言ってもかずちゃんはずっと彰人さんが好きだったんだもんね。やっぱ勝ち目はないか…でもヤだな…信じたくない。昨日まで目の前にいたのにね。その境目ってなんだろう。かずちゃんがもう部屋に来ないなんて現実じゃないみたいだ。抱きしめられないのも…2人でゲームできないのも…ぜんぜん…信じられないよ。」

ケイちゃんの気持ちが痛いほどよくわかる。だって私はケイちゃんを嫌いになったわけじゃない。私だって失うことが信じられない。こんな場面に立つと必ず、彰人さんをやめればいいと心から思ってしまう。でもそれはきっと私にはできないからやっぱりこうするしかないんだ。そしてきっぱりと言わなければ事態は進まない。このままではケイちゃんも私も辛くなるだけだ。

「ごめん、ごめんね…でももう決めた。彰人さんが好きなのに自信がなくてうじうじしてたこと認める。もうそうやって逃げるのやめる。学校でも根暗人間になって逃げるのやめる。言いたいことを言ってやりたいことをやる。人に何を思われても関係ないって言えるようになるのが今の私の目標になった。カッコ悪いトコロがいっぱいあるんだろうけど、隠さないで進むんだ、私。」

「そうやって手の届かないところに行っちゃうんだね、かずちゃんは。」

寂しそうにそう言ったケイちゃんを見ているのが辛すぎる。でも見なくちゃダメだ。

「クラスではやっぱり多少いろいろ噂されると思うけど、なるべくケイちゃんに迷惑がかからないように頑張るから、ホント、ごめん…。」

「いいよ、大丈夫。でもしばらくは辛くて少し恨むかもね。好きな気持ちは急にはなくせない。」

ずっしりと重たい言葉だ。私だってケイちゃんを好きな気持ちを急にはなくせない。切なくなって悲しくなって苦しくなってもここで泣いたら絶対ダメだから、とにかくもうこの場から立ち去るしかない。

「先、行く。ごめん、もう2人きりでは会えない。ホントにごめん、ごめんねっ、」

私はそう言い残して走った。走りながら涙がこぼれ落ちるのがわかったけれど、止まって泣いていたらケイちゃんに追いつかれてしまうからそのまま走り続けた。走りながら、彰人さんに出会わなければケイちゃんだけを好きでいられたんだろうと思わずにはいられなかった。ケイちゃんがすごく好きで、やっぱり一緒にいたいと思う気持ちがこんなにもたくさんある。私だってどうやって苦しくなくなればいいのかちっともわからない。走りながら泣くのはマラソン大会よりも過酷だと思うのに学校に着いても涙は止まらなかった。

昨日も今日も立て続けに泣くなんて一体どういうことだろうと考えながら、この涙が止まったらもう何があっても泣かない人間になってやると気合いを入れた。下駄箱で靴を上履きに履き替えた時が一歩前進した瞬間だと思った。涙は止まった、もう後戻りはできない。

私は私の道を進むんだ。昨日、彰人さんにさせられた死にそうなくらい恥ずかしい行為の数々は私の精神を蝕んだのは確かだけれど、もうこれ以上ないくらい恥ずかしい目に合ったからと開き直れる部分もある。正しく美しくキレイに生きようとするから恥ずかしかったりするんだろう。それをやめれば何だってできる。バカらしいけど変わるきっかけがソレでも、もういい。グレないけれど変わってやる。そして堂々と彰人さんを好きでいてやる。

上を向いてスタスタと速足で教室に入り、自分の席に着くとすでに隣には藤崎がいた。私は立ったまま藤崎を見下ろして笑顔で「おはよう!」と元気いっぱいの声で言った。

朝から涙目でいつもと様子の違う私に藤崎は驚いている。昨日も今日も涙目の時は、藤崎に会うのがなぜかおかしい。まぁ何だっていいけれど、藤崎には生贄になってもらう。ケイちゃんが噂の的にならないように私がびっくりするくらい危ないヤツでいてやるんだ。

私は深呼吸をしてから、

「藤崎くん!昨日はオナニー見せてくれてありがとう!
素晴らしいね!勉強になったよ!私には藤崎くんみたいな変態が合うって気がついた!」

と、明るい笑顔で叫んでやった。

絶句している藤崎。これでまず藤崎も変態だ。私をヤリマンに陥れたんだから藤崎は変態になるべきだ。そして、クラスでは藤崎のお兄さんとつき合っているなんていう回りくどい噂よりも、藤崎本人とつき合っているという方がスキャンダラスな噂の的になりやすい。そうすればケイちゃんは助かるだろうし、あんな女と関係なくなってよかったとみんなから思われるはずだ。藤崎にはあとで事情を話して納得させる。私がケイちゃんと別れるならたぶん受け入れるはずだ。
それにしても、絶対サラリと言ってはいけないであろう言葉をこんなに簡単に言える自分を好きになりそうだ。ワクワクさえしてきた。

顔を真っ赤にして、慌てた表情と怒りの表情がミックスされている藤崎はまだびっくりしすぎて口が聞けない。そんな藤崎を見て私はニヤリと笑う。そして今度は、

「皆さん!ワタクシヤリマン園田は藤崎くんを選びました!ヤリマンには変態藤崎くんしかいません。昨日、藤崎くんにはオナニー告白をしてもらいまして、あ、オナニーしながら告白ってことです。とても心が動かされました。私は藤崎くんとつき合います!素晴らしきカップル誕生です!これからは藤崎くん一筋のヤリマンでございます!幸せになりますっ!」

と、まるで選挙活動のおじさんのように言ってやった。

藤崎は私を見上げて地獄の底から這い出たように、

「お、ま、えぇぇぇぇっっ!」と唸り声で呟いた。




その後、その恥ずかしすぎるエピソードから誕生したカップルの噂は瞬く間に広がった。所詮中学生なんてヒマだからそんな噂話が大好きなんだ。そして私の考え通り、ケイちゃんはふられたとは思われず無事。私と藤崎が何を思われたってケイちゃんが無事ならそれでいい。

藤崎に至ってはもう諦めたように、

「そーなんだ!オレは実はヘンタイでぇ~、」と、おどけたピエロを演じていた。

たしかに恥ずかしがって否定するよりも、おどけて肯定した方がまだ耐えられるのかもしれない。女を好きにならないことがこれでバレにくくなってよかったじゃないかと言ってやったら、

「ああ、そうだな!」と怒りながら認めていた。

そんな藤崎はケイちゃんのことについては何も聞かなかった。

ガラッと変わった学校ライフだけれども、これでは別の意味で私が恐ろしい人間に映るだろうから益々人は寄って来ないだろう。それでぜんぜん構わない。そしてこんなイカレタ女に興味があるなら寄ってきてみろ、その時は友達でも何でもなってやろうと思った。前に彰人さんが言っていたことが少しわかったような気がした。私も最高じゃない未来はいらない。何かを隠し続けていても何にも得られないからたぶんこれでいいんだ。

きっかけオナニーの最悪な目覚めの変身を遂げた私の、最高ライフの幕開けだ。妙に清々しい気分でもあった。そして私は彰人さんを、彰人さんだけを好きでいることができるのが不安だけれど、今のはじけた私は彰人さんにも負ける気がしない。大丈夫、こうやってオトナになるんだ、思春期かかってこい!と叫びたいくらいだった。

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| 【恋愛】B面トライアングル | 00:24 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT

2回読み直しました。
素直に感動しました。

僕は冷血ニンゲンなのか、正直申しまして小説系で感動した事はほとんどありません。
特にエロ系で感動するなんてのは僕の中であるわけがなく、いや、これまでは1度もありませんでした。

しかし、お世辞じゃなく本当に感動しました。
なにかこうかずみちゃんに対してガンバレ!という感情が沸いて来て、最後の選挙活動のおじさんのようなくだりでは背筋がジーンと来ました。

かずみちゃん。
本当にいい子。
エロい意味でなく、ギュッと抱きしめたくなるほどにイイ子。

彰人さん。
イイ味出してますね。
男の性(セックス)のわびさびを感じさせて頂きました。

ケイちゃん。
切ないです。
なんて可愛いヤツなんでしょう。

そして藤崎。
こいつ、最初から凄く好きです。

ここに出てくるヤツラはみんなとっても可愛いです・・・。


さて、アイスコーヒーでも飲みながら、もう一回読み直しますか (◞≼◎≽◟◞౪◟◞≼◎≽◟) <クス♪

| 愚人 | 2011/09/14 23:37 | URI | >> EDIT

>愚人様

◆コメントありがとうございます◆
感動していただいたなんて、嬉しいお言葉をありがとうございます。
揺れる乙女心にもきっといろんな種類があります。滑稽でも一生懸命で、大人になるためには当然エロも必要…。それなのに子供だからいちいちつまづいて、いろんなことを学んでいく。そんな青春ストーリー「B面トライアングル」はひとまず、第一部終了といったところです。

第二部では、正しい形にこだわらないことを学んで少しオトナになったかずみの今後の開き直り、根が危ない男、彰人の本当の願い、振り回されるホモ藤崎の進む道、それぞれが持つ「B面」の意味をまたおもしろおかしく書き記せたらと思います。

でもちょっとここら辺でほかの作品の手直しにも取り掛かりたいと思っております。「USB接続狂の宴」、ものすごくバカらしいお話であると、殴り書きした原稿を久々に読みましたところ笑えました。自分で笑ってしまうくらいバカらしいのです。ある意味コワイし…w
そんなものを生み出す自分がバカだなぁ…と思いつつ、近々アップしたいと思いますので、その時はよろしくお願い致します。あと、「破滅小説」も楽しみにしていますので、無理せず頑張ってくださいね♪

| 玉蟲 | 2011/09/15 16:32 | URI |















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