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B面トライアングル<16>

B面トライアングル<16>【史上最悪と呼べるバレ方】

痛いのはどこだろう。股?胸?もう身体中が筋肉痛だし、アホみたいなこの首のアザ。救いの手なんてあったとしても、もういらないけど、ちょっとだけ言ってみたい。
心が痛いです、と。

そういえば彰人さんは堂々と歯型とキスマークを付けて学校へ行くのだろうか。歯型が付いている人なんて見たことないけど、センセーに怒られないのだろうかと少し思った。彰人さんの心配をしている場合でもないけれど、身体に印をつける側の気持ちもそれなりにあるのだということがわかった。彰人さんは今頃困惑する私を思いニヤついているのかも知れない。そう考えると腹立たしい。そしてこうやって私の考えごとにどんどん侵入してくるのもまた腹立たしい。好きな人が心底腹立たしいなんていうことがあってもいいのだろうかと思ってしまう。その前に本当に彰人さんが好きな人で大丈夫なのだろうか。

諦めるような気持ちとともに「好き」を認めるのもなんとも言えない気持ちになるものだ。怖い、痛い、異常、危ない、のに綺麗。それで「愛」なんていうものは育めるものなのかがわからない。誰かに相談したらケイちゃんを選ぶべきたと言われそうだし、自分でも言いたい。でも相談する相手なんていないから誰にも言われないし、自分で言っても自分の言う事も聞けないのだから仕方ない。自然と溜息がでる。

それよりもさすがに足が重い。ケイちゃんに会うのが怖い。藤崎との対面が恐ろしい。どうにかして伝えなければならない私の状況や気持ち。しかしこんなに定まらないぐちゃぐちゃな心の中を人にきちんと説明なんてできるだろうかと他人事のように考えてしまう。そして部屋で首に包帯を巻きながら、実はミイラがけっこう好きだなんて思ってしまう自分がまた最低だ。ふと、自分のこういうところを何とも思わないのはきっと彰人さんだと直感的に思った。あの人は責めないだろう。だって私より遥かにオカシイ。そういう意味でもやっぱり彰人さんなのかも知れない。

首に包帯を巻いて部屋を出ると、ママには蚊に刺されたところがただれてしまったのだと苦しい言い訳をした。「まだ蚊なんているのかしらねぇ?」と、首をかしげるママを見て、今がもう10月も終わりであることに気付きもっとマシな言い訳を考えなかった自分を責めた。

それから重たい気分を押しのけて玄関の外へ出ると、ケイちゃんが立っていた。やっぱりマトモに顔は見れない。もう早く伝えてしまって楽になりたいと、そればかり考えてしまう。

「かずちゃんオハヨ、…首…どうしたの?」

首は…今へし折られたら楽になれるけど、勝手に折れないし、へし折られたら死んじゃうから、ちゃんとケイちゃんと向き合わなきゃダメだ。

「くっ…首は、蚊に吸われたの。」

そんな自分の言葉に、あきれ返る。しかも蚊に吸われるのは間違いではないけれど、普通は「刺された」だ。蚊じゃなくて彰人さんに吸われたのは事実だからシャレにならない。これからまともに彰人さんのことを話せるのか不安になった。

学校への道のりを下を向いて歩く私に、ケイちゃんは聞く。

「昨日どこ行ってた?」

「昨日は、きのうは…」

動悸と息切れになってきた。こんな下り坂で息切れする人はいないだろうけど、これから告白しようと思う事があまりにもケイちゃんに申し訳なさすぎて脈拍はおかしくなる。こんなことはサラっと言えるものじゃない。私は汚れている上に、彰人さんを嫌いになることができません。というより、あんな変態でもたぶん好きなんです。だから速やかに別れて下さい…と、いきなりそんなことをどうやって言えばいいのかとパニックになる。でも言わなきゃ。

「ケイちゃん、私は、私はね、やっぱり彰人さんが…」

「ここんとこ様子おかしいのってやっぱソレ?
かずちゃん、昨日彰人さんと会ってた?」

ギクリとして一瞬心臓が止まったように思えた。それから止まった反動で一気に脈がドバっと走ったような感じがする。嫌な汗がでる。嫌な汗を感じながら無言でチラとケイちゃんの方を見ると、ケイちゃんと目が合った。そしてケイちゃんは、

「彰人さん…かずちゃん好きだよね。好きって言われた?」と、悪いことをした子供をこれから諭すような表情で言った。

「…………。」

私は黙るしかないけれど、それどころかもうとっくにヤラれましたとは言えないなぁ等と、激しい動機にも負けずにそんなことを思う。

「今日帰って着替えたらすぐ部屋に来て。覚えてるよね、約束。」

押し黙る私に淡々と話を進めるようにケイちゃんはそう言った。

ヤバイ、どうしよう。もうその約束が果たせないと謝らなければならないのに言葉が出てこない。謝るんだ、頑張って言え!今言わなくていつ言うんだ。気合いで言うんだ。

「ご…ごめ…ん、ケイちゃん、それは…もう…」

「ヤダ。約束は約束。それに彰人さん彼女いるじゃん。かずちゃん惑わされてない?兄貴だって言ってたよね、彰人さんに惚れるなって。」

「…………。」

気合いで言おうとした言葉はあっさりと「ヤダ。」と否定されてしまった。それはきっと私の状況……私が汚れ切ってる状況を知らないからだ。それを言わないとダメなのかもしれない。私の気持ちじゃなくて、起きてしまったことを言わないとダメなんだ。嫌われないと別れるのは難しい。でも言えば確実に嫌われるからやっぱり言った方がいいんだろう。世の中にこんなに言い辛いことがあるとは知らなかった。言いたいことを言えない。でも言わなくちゃいけない。

それから私たちは重たい空気の中、無言で歩いた。私は伝えなければいけないことを頭の中で何度も復唱したけど、どうしても言葉にできないまま学校に着いてしまった。放課後までこの気持ちを抱えて過ごすのも酷だとは思ったけれど言えなかったのはどうしようもない。放課後までに覚悟を決めようと思った。そして教室へと向かう中、今度は藤崎と対面しなくてはならないことがまた重く圧し掛かる。

会いたくない。どうしよう、もうものすごく会いたくない。こんなに教室に入りたくないと思ったのは初めてだ。前の学校でクラスの女子に無視されるなんていう軽いいじめにあった時も教室に入りたくないとは思ったけど、そんなのの比じゃないくらい入りたくない。これはもう登校拒否レベルかもしれない。このまま帰ってしまおうか。でも登校拒否なんて繊細な心の持ち主的なことをやってしまって、学活の時間に議題に取り上げられて、理由を明らかに…なんてことになったら「藤崎に性行為見られたので嫌でした。」とは死んでも言えないし、藤崎に「コイツがやってる所を見てしまいました、すんませんでした。」なんて謝る気もないのに言われてもそれは大問題だ。もうどうすればいいのかぜんぜんわからなくなった。本気でどうしよう。

それでも今ここで教室に入らなかったら本当に登校拒否になって、もう二度と学校へ来られなくなってしまうような気がした。だから入るしかないと思った。

止まない動悸息切れと共に、教室へ入る。自分の席の方向が見れない。だけど私は自分の席へ行かなくてはいけない。足はこんなに重たい部位であったかと思いながら進んだ。自分の机に進む中、時間が妙に長く感じるのは考えられないくらい嫌な空間であるからだとわかってはいても、気持ちは軽くはならない。突き刺さる空気と、耐える苦しみを軽減したければとにかく早く歩け、足。と少しでも理論的な思考を育てようと冷静に考えるふりをする。

そして自分の席へ到着すると隣の席を確認できないけれど、目の端に黒っぽい物体をとらえているから、そこに藤崎がいることがわかった。跳ねる心臓を感じながら恐ろしくて一瞬目を閉じてしまった。そしてその直後、直球だった。

「よぉ、園田サン、オハヨ。昨日はお盛んでしたね。まる聞こえの大きな声で。つきあってるんだってねぇ、兄貴と。まさか兄貴の生ラブシーンの相手が園田サンとは思わなくてすげぇびっくりしたよ。でもオレ、オネエサンって呼ぶのはちょっとやだなぁー。だっておまえ凶暴なんだもーん。」

倒れたい。意識をしっかりと失って倒れてしまいたいと思った。藤崎の声は雑音に紛れないから最悪だ。クラスの人たちはいつも藤崎の声を聞き分けるように、藤崎が何か言い出すと静かになったりする。彰人さんも目の離せないような魅力があるけど、コイツもそういうとこがあるのかもしれない。ケイちゃんも例外ではなく、今の言葉をしっかり聞いたんだろう。

教室は無音となった。シーンとしてる。内容が内容だけに、注目を浴びないことはもう無理だ。そして私は言葉が見つからない。心臓だけがうるさく騒いでいる。そんなそんな状況の中、容赦なく第二球が投げられた。

「それにさぁ、フタマタじゃないの?うちの兄貴が相当ハマってるみたいだけどさ、あんた彼氏いるよなぁ、どーなんすかその辺。ヤリマンにハマる兄貴が身内として心配じゃん、オレ。」

ない。ないよ、これは。このまま息をずっと止めたら窒息とかで倒れられるだろうか。そしてできれば目覚めたくないくらいのヤバさだ。コイツは絶対に敵だ。ケイちゃんにバレる心配とコイツに対面する心配はしてたけど、まさかこんなクラス中にぶちまけられるなんて思っていなかった。コイツもキレてる、藤崎家の血筋はヤバイ。

もう何を言ってもやっても私は終わってるから、何でも言ってやれと思ったけれど、何を言えばいいんだろう。開き直るにしたってケイちゃんの前で彰人さんが好きなんだ文句あるかとは言い辛い。ブチ切れられない、ある意味地獄だ。そして間髪入れずの第三球はもう魔球レベルだった。

「兄貴は、ごっついキスマークつけてガッコ行ったよ。何?おまえのその包帯。それとったら同じのあんだよなぁ?わざとらしーなぁ。」

無言になるしかない私にここまで言える藤崎も相当性格が悪いと思った。そんなに嫌われるほど私が何をしたっていうんだ。恨まれてる気さえしてくる。

おまえの兄貴が好き放題やらかした結果だとわめいてもカッコ悪いからもういい。別にいいや、どーせ初めから一人だ。ただケイちゃんと一緒にいたらすごく幸せな気持ちになれたから、失いたくないって思ったんだ。彰人さんにドキドキしたのも本当だけど、ケイちゃんとずっと一緒にいたいなって思ったんだ。フタマタの理由なんて誰に言っても仕方ないけど、どーしてここまで言われる必要がある?こんな形でケイちゃんを失う私の泣き顔でも見たいか、おまえも変態か!

静かにキレよう。もういい、キレよう。

…ケイちゃんを失っても私は本当は平気。そりゃそうだ、いつだってこうやって一人で戦ってきたんだから。なめんな!藤崎!絶対許さん!

私はもう全てがどうにでもなれと一瞬でいろんなことを諦めてから、大きく一つ深呼吸して、落ち着きはらった声を作って言った。

「藤崎くん、藤崎くんって性格最悪だね。あたしの愛するあんたのお兄さんとは大違いで、こっちもすっごくヤな気分。オネエサンなんて呼ばれたら気持ち悪くてゲロ出ちゃいそうだからやめてね。
それからいちいち覗いてんじゃねーよ、童貞野郎。興味深いお年頃ってヤツですか。一人でアレ、大きくしてたんじゃないの?カッコ悪すぎもいいところだね。将来は覗き魔?昨日も言ったけどあんたみたいな最低野郎には犬のケツが合ってるよ。今度いいメス犬探してきてやるから待ってな。
でもホント、兄弟でもここまで違うと最高に笑えるわ。あはははははは。」

ホントは大違いでもない、よく似た変質を持つ兄弟だと思いながら高笑いを続けた。それに「あたしの愛する」だって。自分のセリフにも笑えたからけっこう心から笑えた。なんかのドラマのセリフみたいだ。「愛する」だって。もう相当可笑しくなっていつまでも笑い続けられるくらいの勢いだった。

藤崎は憎たらしい目つきで私を見ている。

地獄のような空気だって時間がたてば変わるか、慣れるかだ。狂ったような自分の声が響く教室に居続けるための根性を勇気づけながら席に着席した。

そして藤崎は低く小さな声で呟くように

「…おまえ…立河より、兄貴が合ってる。」と言った。

藤崎の言葉の真意はわからなかったけど、ものすごい余計なお世話だし、言われなくたってあんたの兄貴に捕まってもうどうにもならなくなってんだから、そう言うなら普通に言ってくれればいいじゃなか。これからの学校生活をどーしてくれるんだ。もうこいつには何一つ気を使う必要はない。好きなことを言ってやれ。

「私の静かなスクールライフがなくなった。もう変人でフタマタでヤリマンって、面白いくらい最悪だと思わない?」

「じゃ、オレの覗き魔の犬野郎っていうのは最悪じゃないと?」

「だって覗いてんじゃん、覗き魔だ。」

「おまえだってフタマタじゃん、ヤリマンだろ。」

「あのねぇ、好きでヤってるワケじゃないの。いろいろあんの。普通兄弟の彼女かもしれない人にそんなこと言うか?信じらんない。」

「じゃ、普通彼氏いるのに、しかもオレん家なのにあんなことするか?」

「だって、しょーがないでしょ、あんたの兄貴!!!彰人さんがねぇっ、彰人さんがもう、とんでもないんだよ、いつもいつもいつも!」

「…まぁ、兄貴は、ちょっと変わってる。」

「ちょっとじゃないよ、ぜんぜんちょっとじゃないよ、大変だったよ私だって!大変なんだよ今だって!これからだって!」

「立河とは別れんの?」

「はぁ?だってそうするしかないでしょ、あんたの存在がそうさせてんだから。それにこんなみんなの前で言わなくたって。バカじゃないの、最低だよもう。」

「オレはそうやって正体表した園田の方が、あの暗~いのより100倍いいと思うけど?」

「…でもヤリマンとかすっごいヤダ。泣くよ普通。」

「泣いてないじゃん、オネエサン。」

「死ね、変態覗き魔。」

「ホントはそんなに見てねーし。ヤってんのはわかったけど。」

「じゃあナンデ ゼンブ ミテタとか言うんだ、ボケ!」

「オレだってびっくりするわ、あそこで明るく声でもかけろってか。」

「でもやらせろとか言うことないでしょ!」

「いや、男としては言うべきなのかなぁ~とか思って。」

「んなワケあるか、アホだろおまえ。」

「あ…、」

もうどうでもよくなった私は何も隠さず藤崎と会話を成立させていた。すっかりと藤崎の方向を向いていたから、藤崎の微妙な視線と「あ…」という言葉で振り向き、私の机の正面に立つケイちゃんに気付いた。

もう私に怖いものなんてないと思っていたけれど、ケイちゃんと目が合うとさすがに崩れ落ちそうになった。血の気が引いて青くなるとはこんな感じかもしれない。

ケイちゃんは私の手を取って

「ちょっと来て。」と、そのまま教室から連れ出した。ケイちゃんの声が冷たく聞こえた。

朝のホームルームが始る時間まであと少しなのに、ずんずんと無言で歩いて手を引っ張っていくのでどうしようかと思ったけど、ケイちゃんにかける言葉として「授業が始まるよ。」なんていうベタなセリフは適切じゃないと思って言えなかった。

私はこの学校に来て3か月にはなるけど、まだよく校舎の構造を理解していない。人数の多い大きな学校でグラウンドを挟んで旧校舎があり、その裏側なんて用もないから行ったこともない。部活動をやっている人たちがその辺で固まっているのを何度か帰り道に見かけたことがある程度だ。

そこら辺に向かうと思われる渡り廊下を今、進んでいる。ケイちゃんが私の手を掴んでいるけれど少し痛い。力の加減に神経が回らないほどケイちゃんは怒っているのかもしれない。何も言わずに速足で進むケイちゃんに私は少し小走りに付いていく。どんなことを言われても謝り倒すしか方法はないから、ごめんなさいと言う心の準備だけはしっかりとしておこうと思っていた。

旧校舎の裏側の外へと続く小さな裏口のような出入り口から上履きのまま外へ出た。本当はここは上履きで出るべきところじゃないとは思うけど、それもこんな場面で言える言葉じゃない。そのままいくつか小さな建物が並んでいる中の一つ、ハンドボールと書かれた建物の扉にケイちゃんは手を掛けた。ハンドボールってどんなスポーツだったかな?と思ったし、なんでケイちゃんはこんなところを知っているんだろうとも思った。

ハンドボールに関係のあるその小さな空間に私とケイちゃんは入っていった。素材はなんだか知らないけど、軽そうなシルバーの簡易的な建物に付いているような扉を閉めると、その中は見た目よりも更に狭く感じられた。砂とホコリとスポーツ用具独特な匂いにむせる。何と呼ぶのか知りたくもないスポーツ用具が無造作に置かれている横には木製のベンチのようなものがあり、ケイちゃんはそこを指差した。私にそこに座れと言っているのだろう。

最近あまりこういう気分になったことはないけれど、小学生の時の清く正しい世界しか知らない頃に悪いことをして先生に叱られる気分だ。本当に悪いことをしたと心から反省して、反省することで今後は決して同じ過ちを繰り返さないと硬く心に誓ったあの頃の気持ちだ。怒る先生も悲しくて残念だと言い、怒られる私も悲しくて、切なくなったあの頃の気持ち。

ケイちゃんはこれから私に何を聞くのだろう。起きたことだろうか。私の気持ちだろうか。そして私たちは恋愛関係になるのをやめて、明日からはどんなふうに顔を合わせればいいのだろうか。そんなことを頭の中で駆け巡らせながら私は木のベンチに座った。

そしてケイちゃんは私の正面に立ち、静かに言った。

「…いつから…彰人さんと?」

言い方が静がでも怒りは伝わってくる。ここで誤魔化してもどうにもならないから全て正直にうちあけようと思った。

「…ケイちゃんとのことがあった次の日。」

沈黙が痛い。言葉をなくすくらいのショックを自分が与えてしまったと思うといたたまれない。私は悪いことをしたのだから謝ることしかできない。

「っ…ごめんなさい、ケイちゃん。」

ケイちゃんは大きなため息をついてゆっくり私の隣に座った。

「かずちゃん、残酷。…彰人さんが好きなの?」

「……。」

彰人さんが好きか、嫌いか。それははっきり好きだと認めてしまわないと絶対ダメなのに、即座に「うん」と言えない。こんな時は私の気持ちのいざこざよりもこの関係を清算するためにとにかく「うん」と言わなければいけないのに、言いたくない。だってこうやって彰人さんが目の前にいないときは魔法にかからないから実際ケイちゃんの方が好きだと思ってしまう。ダメだ、これでは。言わなくちゃダメだんだから、言うんだ、彰人さんが好きだと言え、言うんだ!

「だって、彰人さんが目の前にいると魔法にかかって動けなくなって見とれちゃってなんか全部持っていかれちゃうんだもん。彰人さんの攻撃力がラスボスだとしたら私が一角兎くらいのハナシなんだもん。勝負にならないくらい負けるんだもん。そんで好き勝手やられちゃうんだもん。」

信じられないくらい勝手なことを言ってしまった。ものすごく正直に。

「さっき、藤崎に「愛するお兄さん」って言ってなかった?」

「言ってて笑えた。」

いけない、ケイちゃんの前だとなぜか正直になってしまう。こうなると上手に嘘もつけない。

「でも彰人さんとつきあってるって。ホントにフタマタ?」

「…だって、肉体関係がある。」

「…信じられないよ、あんな痛がってたじゃん。」

「私だって信じられないよ。無理矢理だったもん。」

「でも結局彰人さんが好きなんだろ?」

「………。」

「…オレだって無理矢理にでもかずちゃんをつなぎとめたいよ。別れたくない。」

別れたくない…?肉体関係がばれたら即刻終わりだと思っていたのに「別れたくない」とケイちゃんは言った。じゃぁ結局許せなくなって別れるって彰人さんが言っていたのは嘘?なんとなくその通りなんだろうと思った私が間違っていたのだろうか。今ここでケイちゃんの手を取ることもできるのだろうか。

だけどダメだ。私はもう汚れてる。無理だ。

「もう汚れてるんだもん、私。」

「ヤダよ、そんなこと言うな。彰人さんにもう会わないで。」

ダメだ、ちゃんと言わないといけないんだ、彰人さんが好きだって。言いたくなくても言わないとダメだなんだ。ケイちゃんも私も今ここでどんなに悲しくたって、彰人さんに捕まった私はもう絶対無理なんだから。言うんだ。頑張って言うんだ。言え!

「…だってっ…私は…あっ…あき…とさんが……好…き…。」

私がその言葉を口にするのに、身体の中で何が起こっているのかは知らないけれど、声はこんなにまで出ないものなのかと思うほど絞り出さないと出なかった。

その代わり大粒の涙がぼろぼろと流れてしまって、自分でも驚いた。なんで泣いているのかもわからないのに、悲しくて泣いているわけじゃないのに、涙はどうしてこんなに出るのだろうと思わずにはいられない。

こうやっておかしな空気を作る私が最悪だ。
吸い寄せられるようにケイちゃんは私を無言で強く抱きしめた。

そして私はもうこの腕にはいられないと思ったら、あふれるように涙が止まらなかった。私は卑怯だ。どんな覚悟を決めたってケイちゃんを失いたくないと勝手に思ってしまう。嫌いになったわけじゃないから苦しくて、ケイちゃんが私を嫌いになってくれないと困るのに、別れたくないなんて言うから苦しくてどうにもならない。

私を抱きしめるケイちゃんの腕に更に力が入り、ケイちゃんは言う。

「かずちゃんが好きだよ。別れるとか無理。」

どうしよう。自分がこんなに優柔不断だとは思っていなかった。ケイちゃんが許してくれるならもう彰人さんに会わずにいることもできるのだろうか。もうバレてしまった以上、彰人さんの言う事を聞く必要はない。でも私は彰人さんに魅かれてしまうのもやめられない。きっと自分からまた彰人さんの元へと行ってしまうのがわかる。

右にも左にも進めない、今私がいる場所はもしかしたら青春時代のど真ん中なのかもしれないと、めずらしくシリアスな気分が長続きしていた。静かに抱き合う今、そしてこれから私はケイちゃんに何と声を掛けるのだろう。

真剣且つ、深刻な気分で言葉を探し始めた私に、突然ケイちゃんは言った。

「何回シタ?」

「えっ?」

彰人さんと何回したかと聞いている?回数?ヤッタ回数のことを言っているのだろうか。でもそれ以外に「何回シタ?」に該当する事柄はないように思う。びっくりして涙は止まった。

「彰人さんと何回シタの?」

「……。」

やっぱりヤッタ回数のことを言っているのか。しかしこれは正直に答えていいものかどうか迷う。はっきり言って聞かれたくないし、言いたくない。それに、回数っていうのはどう数えればいいんだろう。なんだか怪しげなことを行った日数で言えば3。そのうちアレを入れた日数は2。ひたすら身体を舐めまわされたのはカウントしなくてもいいのだろうか。でも日に二度とかいう場合はどうすればいいんだろう。そうなると彰人さんがイッタ回数で数えることになるのかな。だとすると3。だけどこういうのは女の人がイク回数は無視していいのだろうか。しかし女の人がイってない場合ノーカウントっていうのも変だ。まさかイッた回数を足す?いやそれはありえない。正しい回数の数え方を私は知らない。

ケイちゃんの突飛な質問により、私の頭はとんでもないことになっていった。

「何回したか、答えて。」

ケイちゃんはどうしても回数を聞きたいらしいけど、私は何と答えていいのかわからなくて、

「たぶん、2、3回?」とあいまいな返事をするしかなかった。

「2、3回?2回なの?3回なの?どっち。」と、ケイちゃんははっきりさせろと言う。

「えと…じゃぁ2回。」

私はバカみたいだとは思ったけど、少しでも罪が軽くなるような気がする少ない方の数字を言った。

「その、3っていうのは何だったの。」

「えへ、よく、わかんない。」

ケイちゃんはいつも諦めのまじったような困った顔で私を見つめて笑う。私はその顔がすごく好きで意味もなく困らせてしまいたくなる時がある。今もケイちゃんに申し訳ないといたたまれない気持ちがたくさんあるのに、ケイちゃんが困ったり悲しんだりすると胸がギュウゥゥゥっとなってしまう。異常だろうか。

私は自分を異常だろうかと考え込んでいたけれどケイちゃんも何か考え込んでいるようだった。そしてその考え込んでいるような表情から急にこちらに向き直り、真剣な顔で言った。

「3回………かずちゃん帰ろう、今すぐ帰ってする。4回。」

「はぁああ?」

ケイちゃんがおかしな方向へ行っている。そこは回数で競うものでは決してないと私は思うし、たぶん他の人も思うのではないだろうか。それに4回とかありえない。でもこの場合の4回はどういう4回なのだろう。ケイちゃんがイク数の4回なんだろうけど、男の人はそう簡単に何回もできるものなのだろうか。彰人さんとの経験により、たぶん2回は大丈夫なのだということはわかるけど4回っていうのはその倍だ。大丈夫だろうか。それに4回分の痛みに耐えられるだろうか。体液の量と痛みの関係性がわかったとはいえ、彰人さんと同じように私の身体から体液たくさん出せとは死んでも言ったらダメだろう。そこら辺は確実に私と同じ初心者マークのケイちゃんなのだから…ってヤバイ、こんな回数や体液の心配をしている場合じゃなかった。

「ケイちゃん、教室に戻ろう。今日戻らなかったら明日すっごく辛くなるよ。藤崎のせいでケイちゃんも巻き込まれたんだから、今日は居づらくても普通に教室に居た方がいいよ。」

「ヤダ、4回。」

「ケイちゃん、回数って関係ある?」

「あるよ!あと、もう彰人さんに絶対会わないでね!ライブもダメ!それから彰人さんにはオレが言うから。かずちゃんはもう絶対会ってもしゃべってもダメだから。わかった?
よし、もうすぐ休み時間だ。かずちゃんのカバンも持ってくるからここで待ってて。」

ケイちゃんはそう言い残して教室へ向かってしまった。私の思う事としてはやっぱり「どうしよう」しかない。マズイことになったとこうやって一人の時間ができれば悩む。そしてこのままケイちゃんと消えれば藤崎が今度は彰人さんに言うのだろう。それもマズイ。ケイちゃんと何かあったとバレたら正直恐ろしいのは彰人さんの方だ。なにをするかわからない。でもそんな怖いからって屈するのもなんかヤだ。だけどこのままだと4回。

どうしたらいいんだ。せめて今日は1回にしないかと提案するべきだろうか。いや違う、その前にそんなあちこちで肉体関係を持つべきじゃないんだ。もっと神聖な行為であるはずなんだから。でも神聖と呼べる?彰人さんの数々のアレ…。ああ、また逸れた。やっぱりダメだ、このまま流されてはいけない。でもどっちだ、私が本当に好きなのはどっちなんだろう。ケイちゃん?彰人さん?

これ以上ないくらいの混乱の中、ハンドボール部の部室になぜかあったラケットの様な道具をおもむろに持ち上げて、「ハンドボールはテニス系?」とか思ってる私にはいつかバチが当たるんじゃないかとどこかで冷静な自分が思っていた。

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| 【恋愛】B面トライアングル | 03:40 | comments:2 | trackbacks(-) | TOP↑

COMMENT

とっても複雑です。
ケイちゃんに対する思いと、彰人に対する思いが複雑に絡み合って、まさに知恵の輪のように曲がりくねったトライアングル。
そして、そのトライアングルを悪戯にチーンっと鳴らす藤崎弟。
いい音出てますね。こいつは小憎たらしいヤツですけど、この複雑なトライアングルを面白可笑しく鳴らしてくれる、スパイスの利いた野郎です。

それにしても複雑すぎるカズミちゃん。
彰人に誘われ断れないのは、神秘な中学生の好奇心なのでしょうか。
と、思えば「だけどダメだ。私はもう汚れてる。無理だ。」と、路地裏の淫売婦のようなセリフをさりげなく呟きます。
かずみちゃんの性格がわかりかけたかと思ったのですが、またわからなくなりました。
かずみちゃんは神秘です。そして複雑です。だからおもしろい。
益々、かずみちゃんの今後が楽しみになって来ました。
次回も期待しております!!

| 愚人 | 2011/07/25 21:21 | URI |

>愚人様

◆コメントありがとうございます◆
複雑に絡み合ってしまったこのトライアングル、「好きな人」ということがまだよくわかっていないのに肉体関係なんてことに突っ走るからこんなことになるのでしょう。
こんな時期の女の子というのは(参考には絶対なりませんが)、というよりかずみは、肉体関係においてそれを大事にとっておきたいと思っていたわけではありませんが、複数の人と関係を持つなんていうことはとんでもなくイケナイことだと思っています。そして藤崎の「ヤリマン」発言により、自分はヤリマン路線を走っているのではないかと不安になりました。そんな不安の増加は、気持ちよくもないのにただヤラレタというだけではなく、彰人と関係を持つことによって快感を得てしまったところにあります。だから自分が汚れてしまったと思うし、これ以上知ってはいけないと無意識に思っているのです。知るのが怖いのは、自分がまだ子供であることを知っているからで、マトモな大人にならなければいけないと信じているからなのです。…どんなに変でも根底は女の子です。すっかりと開き直るワケにもいかないのでしょう。(まだ)

彰人、慶太、藤崎弟のいざこざ関係は今後どんな方向へ進むのか。最後に隣に立つ男は誰なのか。
…正直、コレ、読者様ストレスたまりませんか、大丈夫ですか、という妙にビクビクした気分になるのが不思議でして…。私にとってはハッピーなエンドですが、人様にとってはどうなのかわからない…ということに最近気付きました。が、暴走させていただこうかと思っておりますw

次回、まだまだ大荒れの模様、考えるのに疲れたかずみの出したありえない答えとは!
校正頑張ります!

| 玉蟲 | 2011/07/25 22:25 | URI |















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