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B面トライアングル<7>

B面トライアングル<7>【身近な恋心~冒険の海~】

10月とはいっても、まだまだ暑い日が続く。この間の吉貴くんのバンドのライブから1週間が過ぎた。豚に殴られた顔の腫れはだいぶ引いたけれど、本来は肌色でないとおかしい瞼の上あたりは濃い紫色から黄緑色のような跡がまだ残る。ママには転んだとベタな嘘を言ったけれど何も追及されなかった。吉貴くんとケイちゃんもうちの親に何か言われるのを覚悟していたらしいけど何も言われなかったのが不思議そうだった。

ライブハウスに行った日以来、自分のフォークギターと吉貴くんが貸してくれたエレキギターを毎日触る。弦の上で指先を自在に動かすのはピアノのそれよりもずっと難しかった。でもあの衝撃があるからこそあきらめる気にはならない。水ぶくれのできた左手の中指と薬指に弦が当たる痛さは、今少しずつでも行きたい場所に近づいているようで心地いいとさえ思う。女の子にしては大き目の自分の手がしっかりとネックを包み込むところを見ながら、何度も指を動かす練習を繰り返していた。

私は毎日学校へは普通に行くけれど、心はそこにはない。かといって、じゃあどこにあるといわれても、どこにあるのかもわからない。最近、本を読んでいても、ゲームをやっていても、ギターの練習をしていても、自分はこの先何を求めて生きていくのだろうと、漠然とした不安に襲われることがある。だけど、もしかしたらそれが思春期というヤツなのではないかと考え、妙に暗くなるのをやめようとも思ったりする。こんな時、友達がいたら何か話しあったりして、答えに近いようなものは見つかっていくのかもしれない。

友達といったら今の私にはケイちゃんしかいない。性別が違うといっても今の私達にそれが関係あるのかないのかが微妙なところだ。お互いに緊張したりドキドキしたししないでいられるのに性別が違う。思ったことを正直に話せて、楽しいことを共有したり、わからないことを一緒に考えたりするのが友達だとするとどう考えてもケイちゃんは友達だ。

一人で考えていても答えの出ないことは友達と一緒に考えるのがいい。うずうずしているこの感覚、何かやりたいけど何をしていいのかわからないこの気持ち、一人で悩むよりは友達に相談すればいいのだろうか。

そうやって私は、ヒマを持て余すたびにケイちゃんのことろへ行く。ケイちゃんはいつも嫌な顔もせず私と一緒にいてくれて、いろんな話を聞いてくれる。時に毒舌だけど、そこがまた友達っぽくていい。気を使わずに時間を過ごせる友達。一人じゃないこともわりと楽しいと思えてきた今日この頃。

「私はね、知らない世界に飛び込みたいの。あ、あとね、冒険もしたい。いろいろいろいろやりたいの。でもなにをしていいのかはワカラナイ。ケイちゃんはないの?そういうの。」

ゲームのコントローラーとケイちゃんはいつもセットだ。例えばこのコントローラーが野球のグローブだったりしたら、爆笑してしまうくらいケイちゃんにはコントローラーが似合う。

「知らない世界ぃ?冒険?…ソレってゲームで充分じゃない?」

「ケイちゃんはロマンのない男だなぁ。」

だらだらと2人でおやつと食べながら雑談の中の雑談を繰り返すこんな時間が好きだ。

「ねぇ、夜の海を冒険しない?夜中にこっそりぬけだして、夜の海から旅にでるの。エルマーみたいに。外国船に乗り込んで、ドラゴンと戦ったり。」

ケイちゃんはゲームの画面から目を放して私を見る。

「かずちゃんさぁ、エルマーはドラゴンと戦わないよ、助けるんでしょ?そして夜の海なんて行っても外国船もドラゴンもいないよ、ドリーマーなこと言っても可愛い年じゃないよね?」

ため息混じりに諦めたようなオトナっぽい口調でそんなことを言うケイちゃんがちょっと憎たらしい。自分だって子供のくせに。

「分かってるよっ、そういう気分を味わいたいっていうかぁっ、何かしたいっていうかさぁ。」

「何かね…。いいよ、じゃぁ夜の海に行こうか。」

少しイタズラっぽい表情で私の顔を覗き込むケイちゃんと、ニヤリとする私。共犯な空気がワクワク感を掻き立てる。私のわけの分からない何かの衝動を表したいだけの言葉につきあってくれる友達は最高だと思った。

「今日の夜は?土曜だし明日学校休みだからちょうどいいよ。」

そう言ったケイちゃんにすごく嬉しくなった私は即座にこう答えた。

「うん、行こう。冒険だから聖なるナイフみたいな、万能ナイフいるかな…?」

「イラナイでしょ、どう考えても…。」

私たちはくすくす笑いながら今日の夜の計画を立てた。



その日の夜、深夜1時。私は玄関からではなく、階段の下に位置するトイレの窓からこっそりと抜けだした。帰って来る時もこの窓から入れば問題ない。間取り的にこの場所だったら多少の音がしても両親や妹の寝ている部屋には聞こえそうにない。それでも足音を立てずに外へ出ると、どの家も寝静まって真っ暗だった。

なんだかこれだけのことでもドキドキする。真夜中に家を抜けだして冒険に出掛けるなんて、なんて楽しいんだ。胸が踊る。わくわくする。ケイちゃんも無事抜け出すことに成功しただろうか。

私が外へ出てからほんの1、2分後、ケイちゃんの家の方へ向かおうと裏口方面に続く細い脇道に目をやると、向こうから来る人影に気づいた。おそらくケイちゃんだ。ケイちゃんも抜け出すことに成功したと思ったらますますわくわくしてきた。

私たちは真夜中に家を抜け出し海へと向かう少年少女。これはもしかしてそれなりに「青春真っただ中」なのではないかと思った。大人になってもきっと忘れられない思い出を今、作っているような気がする。

「ケイちゃん!」

「しぃっ!静かにね。行こう!」

「うん。」

小声で話す私たちは真っ黒な暗闇の中を、小走りに海の方へ向かった。海はへは急げば20分程度で着く。私はこの真夜中の冒険が嬉しくて楽しくて、この闇の中に今自分がいることにとても興奮していた。そして真っすぐな坂道を登り切ったところで、いいことを思いついてしまった。

「ケイちゃん、海まで何があっても真っ直ぐ進むことにしよう。」

真っすぐには進めない曲がり角のところだった。

「はぁぁぁ?だってもう真っすぐには進めないじゃん。」

「この平垣を乗り越えて、人ん家の庭を通って行くんだよ。」

「あははっ、かずちゃん、なんでそう無茶ばっか…。」

私たちは突き当たってしまった左右に分かれている道をどちらにも行かないで、人の家の平垣をのぼり、こっそりと庭を通ったりしながら、とにかく真っ直ぐ進んだ。物音を立てないように、まるで忍者かスパイのように。面白くて楽しくて、時には手をつないで高い平垣を乗り越えた。

どんどん進むと小さな工場のようなところへ出た。工場の敷地内に入るのは大変そうだ。まず、平垣の壁が高い。それでもどうにか進みたい。

「ケイちゃん、やっぱりロープとか万能ナイフを持ってくるべきだったね。」

「そうだね。」とくすくす笑いながら答えるケイちゃんも楽しそうだ。

「ここから二人で冒険の旅に出られたらいいのに。」と言う私に、

「死んじゃうとは思うけど、そういうのもいいね。」と毒舌混じりに認めた。



私たちは20分で行けるような浜辺までの距離に1時間くらいはかけた。無駄なことと余計なことに一生懸命になった。それがバカみたいに楽しくて、清々しかった。そして到着したのは海水浴場でもなんでもない、ただの浜辺。歩きづらい海の砂の山を登ってからゆるやかな下り阪を降りるとそこはもう浜辺だった。

波に濡れないギリギリの所に二人で並んで座った。私もケイちゃんも真っ黒な海面に現れる波の白い部分を次々と目で追いながら、身体を休めた。

「あのさ…。」

ケイちゃんが、私に言いたいことがありそうに問いかけるので、私はケイちゃんの方を見る。ケイちゃんは波をじっと見つめたまま話し始めた。

「かずちゃん、学校楽しい?」

「え?…学校?」

私が学校で根暗人間を通してるのは、正しいとか正しくないとかそういう話だろうか。私だって正しくはないと思うけど、それに関しては正しくなくても自分の好きにしていたい。説得されるのは好きじゃないのに、道徳の時間みたいに気持ち悪いことでも言われるのかと思ったら少し怖くなった。好きだと思っている友達を嫌いになりたくない。

「かずちゃんが辛くなけれないいんだけどね、オレは。でも、どうしてそんなに他の人に…その、なんていうか心開かないのかな、と思って。」

「だって面倒なんだもん。普通に。ぜんぜん関わりたくない。」

そのままじゃダメなんじゃないの、なんていう言葉は今は言われたくないけど、そんなことを言われそうな雰囲気。

「最近気づいたことがあるんだ。何て言うか、うまく説明できないかもしれないけど、かずちゃんが他の人にぜんぜんなつかないのに、毎日オレのところに来るのがすごく気分がいいみたいなところがある。喜んでる自分がいる。」

「えっ?」

「でも、そういう、なんて言うんだろ、独占欲?みたいなのってけっこう厄介で、かずちゃんが他のことに夢中になるとものすごく不安になる。この前の兄貴のライブの時みたいに。」

「え、えと、ケイちゃん、それってもしかして恋心とか関係してる系?」

「うーん、それがね、オレもよく分からないんだけど、たぶんそう。」

びっくりしてしまった。道徳のお話よりも難しい話だ。やはり男女の間では友情も有りだけど、そういうのがついてくるものなのだろうか。たしかに私もケイちゃんを好きだし、この先にそういう気持ちが生まれるなら、自然なのかもしれないと思っていたけれど少し急なように思えた。でも、ここで出す答えによっては、ケイちゃんを失ってしまうことになったりするのだろうか。

私が言葉に詰まっていると、ケイちゃんが一番してほしくない質問をした。

「かずちゃん、ホントは彰人さんのことどう思ってるの…?」

「え゛……。」

彰人さんの名前が出るだけで、今までわりとなだらかだった心臓はドクンと波打った。

「だから、彰人さんのこと好きなんじゃない?ホントは。」

「ギクリ」と「びっくり」だったら明らかに「ギクリ」としてしまった。だけど、そう言われても否定するしか道はない。自分自身のためにも肯定するわけにはいかない。

「そ、そんなことないよっ。」と、明らかに動揺を隠し切れていない私にケイちゃんはまたもやするどく嫌な事を言う。

「見てて分かるよ、かずちゃんの緊張。」

ここは今砂浜で、目の前は真っ黒な海だから恥ずかしくて死にそうになって真っ赤になってしまったとしてもバレない。でもこの砂を100メートルくらい掘って埋まってしまいたいと思った。ケイちゃんにバレているのが恥ずかしすぎる。そしてケイちゃんに分かるくらいなんだから、もっとオトナの人たち…彰人さんや吉貴くんにも私の態度により、気持ちまでもバレてしまっている確率は高い。真剣に今、海に走って行って溺れてしまおうかとも思った。それでも一応言い訳くらいはしておこう。無駄でも。

「いや、だってさぁ、それはさぁ、ケイちゃんだって普通に超キレイで美人なお姉さんいたら緊張するでしょ?好きとか嫌いとか関係なしに緊張しちゃうでしょ、そういうカンジでしょ!私だって一応女の子なんだから、カッコイイ人に緊張くらいするでしょ!」

これは間違ってないはず。普通なはずだ。カッコいい人に対して緊張することと、「好き」っていうことは根本的に違うんだから、コレでいいはず。自分でもよくわからない部分だけど、案外コレが本当のことだとも思えるし、そう信じたい。

「でもなんか、恋心見えちゃうんだよね。かまわれて喜んでるじゃん。」

今日のケイちゃんはいつもより意地が悪い。私はそんなに喜んでいるように見えるのだろうか。誰の目にもそんなふうに映ってしまっているのだろうか。すごくカッコ悪くてさすがに凹んでしまいそうだ。

「今日はなんでそんなにヤなこと言うのかなぁ、ケイちゃんは。」

「だってオレだってオトナじゃないもん。」

今まで気にならなかった波の音が大きく感じられる沈黙を作った。2人で海を見ながらしばらく黙っていた。私はどんな答えを出せばいいのか全く分からないまま、砂浜の砂をサラサラと触っている。それでも波の音は心地よく、気持ちを落ち着かせてくれた。私は答えが見つけられないので、正直な気持ちを言うしかなかった。

「思春期のなせる技でね、少もうしオトナになったら彰人さんなんて平気になるんだと思う。例え恋心なんかがあったとしても淡くて切ない系で、砕け散るために用意されたようなもんなの。乙女心を育てるためにも必要なの、きっと。」

「へぇ、乙女心…」

人が正直に話してるのに、見下したような言い方でケイちゃんが呟く。なんという態度だろうか。ムカついてきた。

「仕方ないじゃん、ケイちゃんだってキレイなお姉さんにつきまとわれたらそうなるよ、絶対!」

「うん、そうなのかもしれないけど…でも彰人さんに恋心とか…オレがムカつくんだもん。やっぱどー考えてもかずちゃんが好きなんだと思う。」

ケイちゃんもなかなか混乱しているのかもしれない。そんなものすごく他人事のように気持ちを語られてもこちらもピンと来ない。私だったら好きな人を目の前に、こんなに冷静に自分の気持ちは言えないし、相談?もできない。ケイちゃんもずいぶんと面白い性質の人だと思った。

「でもさぁ、ケイちゃんがまさか愛を語るとは思ってなかったよ。」

「えっ、愛を語るとか言うなよな、愛は語ってないよ、愛は。」

「…えー???じゃぁ何語ってんの?」

「…さぁ?」

私たちは真っ黒な海に簡単に飲みこまれそうなくらい未熟な生き物に思えた。どちらもわけのわからない感情を抱えているのは確かだけど、私たちはこうやって一緒にいるんだから、お互いの抱えている感情を整頓していかなくてはならないんだろう。一体私には何ができるんだろう。そして、ケイちゃんはどうするつもりなんだろう。

「私だって本当は、きっと高校生とかになったらケイちゃんと手を繋ぐのかもって思ってたよ。少しだけ。」

素直な気持ちを表現するケイちゃんに対して、自分も正直に言ってみた。

「手?…は、さっき繋いだじゃん。
かずちゃんそんな子供みたいなこと言うんだ。」

「だって、なんかそういうのじゃなくて、別の意味でっ。」

そう言った私の、砂浜をサラサラと這わせていた手をサクっと捕まえて、ケイちゃんはギュッと力を入れた。私は一瞬ビクっとしてしまった。

「今は別の意味になる?」

ドキドキはするけれど、そんなに心地の悪くない緊張だと思った。でも、今日は全体的に意地悪なことを言われた気分が抜けなくて、

「別な意味にはね、高校生にならないとなんないの。」と言ってやった。

ケイちゃんは「たしかにね、こんな砂だらけな手じゃね。」と私の手を取って笑った。

なんとなく、何か大切なものを育んでいるのが分かる。急がなくても、無理をしなくてもいい空気の中、それでも少しはドキドキしてる。こういうのが心を通わせつつ、分かりあっていく過程なんだと思う。それに比べて彰人さんのあの何とも言えない強引な空気。好きになったら苦労すること100%としか思えないのに、なんでそこまで私は囚われるんだろう。


私たちは真っ暗な道を、帰りは普通に歩いて帰った。静かに歩きながらケイちゃんは「学校でもオレとは普通に話せばいいじゃん。」と言ったけど、やっぱり噂の的になるような気がして「うん。」とは言えなかった。

「だって、噂になるし、「立河くん」って呼びづらい。」

目立つのが嫌いだと言っていたケイちゃんなのに、

「名前で呼べばいいし、噂になってもいい。」と、ついこの間まで「ケイちゃんて呼ぶな」と言っていた人のセリフとは思えないことを言っている。恋心ってそんなに心境を変えるものなんだと感心してしまった。

私は「そんなに私のこと好きなんだ?」と、意地悪く聞いてみたけど、ケイちゃんは照れたそぶりも見せないで「うん。って言って欲しいの?」と聞き返してきた。また微妙な空気を作りながら、2人でくすくすと笑いながら家に帰った。

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